全国の基幹的医療機関に配置されている『ロハス・メディカル』の発行元が、
その経験と人的ネットワークを生かし、科学的根拠のある健康情報を厳選してお届けするサイトです。
情報は大きく8つのカテゴリーに分類され、右上のカテゴリーボタンから、それぞれのページへ移動できます。

認知症の日常生活関連動作障害はアミロイド沈着に関連

  • このエントリーをはてなブックマークに追加

 米国を中心に進められているAlzheimer's Disease Neuroimaging Initiative(ADNI)という研究において、認知正常者と軽度認知障害者を対象にアミロイド沈着と日常生活関連動作障害との関係を、ピッツバーグ化合物B(PiB)という造影剤を用いた陽電子放射断層撮影(PET)で調査したところ、軽度認知障害者では脳内のPiB滞留がより多くなっており、日常生活関連動作障害の大きさと関連あることが分かりました。

Instrumental Activities of Daily Living Impairment Is Associated with Increased Amyloid Burden
Gad A. Marshall, Lauren E. Olson, Meghan T. Frey, Jacqueline Maye, J. Alex Becker, Dorene M. Rentz, Reisa A. Sperling, Keith A. Johnson, and Alzheimer's Disease Neuroimaging Initiative
Dement Geriatr Cogn Disord. 2011 August; 31(6): 443-450.
Published online 2011 July 20. doi: 10.1159/000329543

川口利の論文抄訳

発行人の実兄。上智大学文学部卒。千葉県立高校の英語教師在任中に半年間の英国留学を経験。早期退職後に青年海外協力隊員となって、ホンジュラスで勤務、同じく調整員としてパナマで勤務。

 アルツハイマー病での日常生活関連動作障害は、検死解剖研究において全体的なアミロイド沈着との関連が分かってきている。本研究では、日常生活関連動作が、皮質のピッツバーグ化合物B(PiB)(*1)の滞留増加と関連するのかどうかを測定しようとした。

 19人の正常な高齢対照群と36人の軽度認知障害高齢者、合計55人が臨床評価とPiB造影陽電子放射断層撮影(PET)画像検査を受けた。線形重回帰モデルによって、すべての対象者において、日常生活関連動作障害がより大きいほど全体的なPiB滞留がより多いことと関連あることが示され、決定係数R²=0.40、非標準化回帰係数β=5.8、P=0.0002となった。また、軽度認知障害者のみではR²=0.28、β=6.1、P=0.003となったが、認知正常者のみでは関連が見られなかった。

 これらの結果から、日常機能障害は、軽度認知障害者におけるより多いアミロイド負荷量と関連あることが示される。

●背景

 日常生活関連動作は、金銭の取り扱い・公共交通機関利用や車の運転・衣料品や食料品の買物・食事の支度・掃除・洗濯など、多くの日々の活動を含んでいる。日常生活関連動作障害は、健忘型軽度認知障害から認知症への患者移行として典型的に現れる。日常生活関連動作障害は、介護者の負担を大きく増すことになり、アルツハイマー病の特徴でもある。アルツハイマー病における日常生活関連動作障害は、生体内の下頭頂小葉・上後頭回・下側側頭の代謝低下と関連があり、検死解剖研究においては全体的なアミロイド沈着との関連が見られている。

 ピッツバーグ化合物B(PiB)陽電子放射断層撮影(PET)画像の出現に伴い、今や病気進行過程のより早い段階で、認知症が明らかになるかなり以前に、生体内のアミロイド沈着を視覚化することが可能である。軽度認知障害患者に関する多くの研究が、PiB結合増大の二峰性分布を示してきており、ある軽度認知障害者群ではアルツハイマー病患者と同レベルのPiB滞留が明らかになり、他方ではPiB陰性の正常対照群と同様の非特異性結合のみが明らかになっている。同様に、軽度認知障害者の死後解剖評価研究が、患者の半数近くは最小のアミロイド病態という、軽度認知障害者の病態における不均質性を示してきている。軽度認知障害者での有意な病態変動性を考慮すると、軽度認知障害者のうち、どのサブセットがアルツハイマー病の病態を隠し持っており認知症へと傾いていくのかを予測するためには、追加情報が必要となるのである。日常生活関連動作のような追加の臨床症状は、差し迫っている低下の重要な目印かもしれない。

 認知正常・軽度認知障害・アルツハイマー病の様々な対象者において、PiB滞留増加と特に記憶障害という認知パフォーマンス低下との関連が、いくつかの研究から示されてきている。別の研究は、日常生活動作に大いに左右される臨床的認知症尺度(Clinical Dementia Rating=CDR)(*2)が、様々な認知症患者においてPiB滞留と相互関係があることを見出した。知る限りにおいて、軽度認知障害における日常生活関連動作と生体内のアミロイド沈着との関係を評価した研究は存在していない。それ故に、本研究では、わずかな日常生活関連動作障害が、高いアミロイド負荷量を伴い軽度認知障害者において存在するかどうかを調査することに着手した。

 本研究では、日常生活関連動作障害が、軽度認知障害者や認知正常者を含め、認知症ではない高齢者において皮質のPiB滞留と関連するのかどうかを、年齢・認知的予備力・全体的認知機能障害・記憶特性を考慮に入れ測定しようとした。さらに、認知正常者には有意な日常生活関連動作障害は見られないとの予想から、軽度認知障害者に焦点を当てた。日常生活関連動作障害とPiB滞留の両方が、それぞれ全体的認知機能障害と記憶障害に関連しているので、日常生活関連動作障害に対する認知機能障害とアミロイド病態の潜在的分布を個別に評価できる線形重回帰を用いた。日常生活関連動作障害がより大きいことが、全体的な皮質のPiB滞留がより多いことと関連するだろうと仮定した。

 デフォルトネットワーク機能障害は、日常生活関連動作障害およびPiB滞留と関連があるので、日常生活関連動作障害がデフォルトネットワークにおけるより多いPiB滞留と関連あるのかどうかを測定しようとした。全体的な皮質のPiB滞留は、PiB滞留がより少ない内側側頭葉を除いては、他の皮質における領域的PiB滞留と高い相互関係がある。それ自体として、臨床評価または認知評価との領域的特定関連は、検出することが困難である。それにもかかわらず、本研究では、探査分析において、皮質のPiB滞留の特定領域型が日常生活関連動作障害と関連あるのかどうかを見極めようとした。

●方法

(1)対象者
 本論文でデータの一部として使用されているのは、Alzheimer's Disease Neuroimaging Initiative(ADNI)(*3)から入手されたものである。残りのデータは、ブリガム女性病院およびマサチューセッツ総合病院における研究者によって始められた機能的MRI-ADNI付属研究から入手されている。

 認知正常者19人、軽度認知障害者36人の合計55人が、ADNI(55人中22人で認知正常者4人と軽度認知障害者18人)またはADNI付属研究(55人中33人で認知正常者15人と軽度認知障害者18人)に参加し、PiB造影PET画像診断を受け、本分析対象となった。対象者は、年齢が58歳以上86歳以下で、検診において医学的に安定しており、付帯的情報を提供することのできる研究パートナーを有していた。対象者は、有意な神経性症状はなく、アルコール乱用や薬物乱用がなく、進行中の精神科診断がなかった。老年期うつ病評価尺度(短縮版)の得点は5点以下、通常版10点以下、改訂版ハチンスキー虚血スコア4点以下であった。

 認知正常者は、臨床的認知症尺度(Clinical Dementia Rating=CDR)の全体的な項目点合計が0、ミニメンタルステート検査得点が28点以上30点以下で、個々の認知領域における有意な障害はなかった。軽度認知障害者は、一つまたは複数の領域での健忘型軽度認知障害基準に適合し、本人または研究パートナーからの記憶愁訴があったり、ウェクスラー記憶検査改訂版の論理記憶項目での客観的記憶障害があったりしたが、CDRによる評価で基本的には日常生活関連動作に問題はなく、認知障害ではなかった。全体的なCDR点は0.5で、記憶項目点は0.5点以上、ミニメンタルステート検査得点は24点以上30点以下であった。

(2)臨床評価
 日常生活関連動作は、情報提供者に基づくFunctional Activities Questionnaire(FAQ=機能活動調査票)によって評価された。FAQの得点がより高いほど、より大きな日常生活関連動作障害を示しており、本分析での得点幅は0 ~14点(最大範囲は0~30点)となった。ほとんどの研究では、FAQでの境界点は用いていないが、ある研究では、6点以上は機能障害を意味するとした。

 本分析では、以下の尺度も使用した。
1 全体的認知機能評価のためのミニメンタルステート検査(=MMSE、本分析での得点幅は24~30点、最大範囲は0~30点、得点が低いほど認知機能障害がより大きい)
2 記憶特性評価のためのレイ15語聴覚性言語性学習検査(=RAVLT、本分析では30分遅延想起得点を用い得点幅は0~15点、得点が低いほど記憶障害がより大きい)
3 発病前の言語使用および理解に関する知性推定となるAmerican National Adult Reading Test知能指数(=AMNART IQ、本分析での得点幅は84~131点、最大範囲は74~132点、得点が高いほど知性水準がより高い)

(3)PiB PET画像
 透過スキャニング後に10~15mCi(ミリキューリ)の11C PiBが注射され、直ちにADNI付属研究では60分のダイナミック撮影が実施された。ADNIのPiB PETデータは、70分のダイナミック撮影のものが使われている。皮質のPiB滞留は、分布容積比(DVR)を用いて評価された。対象部位(regions of interest = ROI)は、自動対応付けにより獲得された。一次的分析には、皮質部位の総計からなる全体的PiB滞留値が用いられた。探査分析においては、左右後頭平均・楔前部・縁上回・海馬傍回・上中前頭回・下側眼窩前頭の6対象部位のPiB滞留が用いられた。

(4)データ分析
 認知正常者と軽度認知障害者の人数から予測されたように、55人中30人はFAQ得点が0となった。FAQ得点分布は右方向に歪んだため、FAQによる潜在的予測因子の関係評価では、スピアマンの順位相関係数(rs)を用いた。

 すべての対象者における一次的分析には、FAQを従属変数とし、全体的PiB滞留・年齢・AMNART IQ・MMSE・RAVLT遅延想起を予測因子とする線形重回帰モデルを用いた。すべての対象者において、MMSEとRAVLT遅延想起は、FAQと有意に負の相互関連となり、RAVLTのスピアマンの順位相関係数rs=-0.34、P=0.011、MMSEのrs=-0.34、P=0.011となったので、FAQに対するPiB滞留の独立効果をよりはっきり証明するために予測因子として含めた。性別はFAQとの間には有意な関連が存在しなかったので、予測因子として含めなかった。年齢とFAQとの間に有意な相互関連は存在しなかったが、年齢が高くなることとより多いPiB滞留との関連が先行して記述されていることから、年齢をモデルに含めた。同様に、AMNART IQもFAQと有意な相互関連とはならなかったが、認知的予備力のPiB滞留に対する影響が先行して記述されているので、モデルに含めた。

 その後、軽度認知障害者のみで、同じ分析を繰り返した。FAQを従属変数とし、全体的PiB滞留・年齢・AMNART IQを予測因子とする線形重回帰モデルを用いた。MMSE・RAVLT遅延想起・性別は、軽度認知障害者のみにおいてはFAQと有意に関連しなかったので、予測因子として含めなかった。しかしながら、すべての対象者における回帰モデルでは、予測因子としてMMSEとRAVLT遅延想起を含めたので、これらの予測因子を含めた軽度認知障害者のみでの回帰モデルを再実行したところ、結果は変わらなかった。線形重回帰モデルを使った軽度認知障害者のみの分析を、認知正常者のみでも繰り返した。

 本標本においては、FAQが歪んだ分布となったことから、線形重回帰モデルの結果を確認するため、すべての対象者・軽度認知障害者のみ・認知正常者のみにおいて偏順位相関分析(係数prs)を実施した。偏相関おいても、回帰モデルに含めたのと同じ共変数を用いた。

 すべての対象者・軽度認知障害者のみ・認知正常者のみにおける探査分析では、FAQと6対象部位での領域的PiB滞留との関係評価のために、スピアマンの順位相関を用いた。すべての領域が高い相関関係にあり、PiB滞留との臨床的関連は全体的関連に見えたので、線形重回帰モデルでの追跡調査は実施しなかった。

●結果

 MMSEとRAVLT遅延想起は、すべての対象者においてはFAQと有意に負の相互関連となり、RAVLTのrs=-0.34、P=0.011、MMSEのrs=-0.34、P=0.011となったが、軽度認知障害者のみではRAVLTがrs=-0.14、P=0.41、MMSEがrs=-0.23、P=0.17、認知正常者のみではRAVLTがrs=-0.04、P=0.87、MMSEがrs=-0.05、P=0.84となり、有意ではなかった。予測通り、臨床的認知症尺度(CDR)は日常生活動作に大きく左右されるので、CDRの項目合計点はすべての対象者においてFAQと有意に相互関連がありrs=0.66、P=0.0001となり、軽度認知障害者のみでもrs=0.55、P=0.0005と有意になった。

 臨床評価とPiB PET走査の間隔は、平均60.6日(標準偏差74.0日)だった。すべての対象者での全体的PiB分布容積比(DVR)は1.33±0.29、軽度認知障害者のみでは1.37±0.32、認知正常者のみでは1.24±0.19となった。

 年齢・AMNART IQ・MMSE・RAVLT遅延想起を含めた線形重回帰モデルでの、すべての対象者における一次的分析に対して、より大きな日常生活関連動作障害とより多い全体的なPiB滞留との間に有意な偏相関関係を見出し、決定係数R²=0.40、モデルに対するP=0.0001、非標準化回帰係数β=5.8、P=0.0002、β信頼区間95%(2.9~8.7)となった。このモデルを用いて、全体的PiB DVRにおいて1単位増加するごとに、FAQにおいて5.8の増加にあたるだろうと推測している。

 軽度認知障害者のみを見ると、年齢とAMNART IQを含めた線形重回帰モデルにおいて、より大きな日常生活関連動作障害とより多い全体的なPiB滞留との間に有意な偏相関関係を見出し、R²=0.28、モデルに対するP=0.013、β=6.1、P=0.003、β信頼区間95%(2.2~10.0)となった。このモデルを用いて、全体的PiB DVRにおいて1単位増加するごとに、FAQにおいて6.1の増加にあたるだろうと推測している。MMSEとRAVLT遅延想起をモデルに含めても結果は変わらず、R²=0.37、モデルに対するP=0.014、β=6.3、P=0.002、β信頼区間95%(2.5~10.2)となった。

 認知正常者のみを見ると、年齢とAMNART IQを含めた線形重回帰モデルにおいて、予想通り、より大きな日常生活関連動作障害とより多い全体的なPiB滞留との間には有意な偏相関関係がなく、R²=0.12、モデルに対するP=0.59、β=-0.4、P=0.66、β信頼区間95%(-2.5~1.7)となった。

 線形重回帰モデルの結果は、偏順位相関によって確認され、すべての対象者における偏順位相関係数prs=0.45、P=0.001、軽度認知障害者ではprs=0.50、P=0.002、認知正常者ではprs=0.04、P=0.89となった。より大きな日常生活関連動作障害とより多い全体的なPiB滞留との間での偏相関は、すべての対象者と軽度認知障害者のみにおいて見られたが、認知正常者のみにおいては見られなかった。

 すべての対象者における探査領域分析では、6領域のうちの5領域でより大きな日常生活関連動作障害とより多い領域的PiB滞留との有意な関連を見出し、rsは0.28から0.46の幅となりP<0.05となった。内側側頭葉(海馬傍回)PiB滞留との有意な関連はなかった。予想通り、すべての領域が高い相関関係にあり、rsは0.67から0.90の幅となった。PiB滞留領域が高い相関関係にあったので、PiB滞留との臨床的関連は全体的なものに見えた。軽度認知障害者のみを見ると、日常生活関連動作障害と領域的PiB滞留との間で、有意な関連が同様に得られた。認知正常者のみを見ると、日常生活関連動作障害と領域的PiB滞留との間での有意な関連は存在しなかった。

●考察

 本研究結果から、日常機能障害は、年齢・認知的予備力・全体的認知機能障害・記憶特性とは独立して、軽度認知障害者と認知正常者の標本内でより大きなアミロイド負荷量と関連があると示される。特に、全体的なPiB滞留は、軽度認知障害者において日常生活関連動作障害と関連があった。本結果は、6項目中3項目が日常生活動作を評価するCDRが、認知正常者・軽度認知障害者・様々な認知症患者での標本でPiB滞留と関連あるとした別の研究、そして、認知正常者とアルツハイマー病患者を含む標本において、CDRの項目合計点がPiB滞留に関係しているとした別の研究に一致している。これらの2研究では、本研究で実施したような、標本全体に対する全体的認知機能障害や記憶障害での調整は加えなかった。それ故に、本研究における全体的なPiB滞留と日常生活関連動作障害との関連は、日常生活関連動作-全体的認知機能または日常生活関連動作-記憶の関係による潜在的にうわべだけのものではない。同様に、検死解剖研究が、重症アルツハイマー病における全体的なアミロイド病態と日常生活での障害との間の関係を証明した。本研究は、上述のいくつかの研究結果を、軽度認知障害者におけるCDRの項目合計点平均が1.5であったことで証拠づけられる通り、より軽度の認知障害へと広げるものである。

 結論として、本研究では、軽度認知障害者において、全体的な皮質のアミロイド負荷量は日常生活関連動作障害と関連があった。将来の縦断的研究が、初期のアミロイド沈着は急速な機能低下や認知症への進行を予測するのかどうかを決定する助けとなるであろう。

↓↓↓当サイトを広く知っていただくため、ブログランキングに参加しました。応援クリックよろしくお願いします。


1 |  2 
  • 患者と医療従事者の自律をサポートする医療と健康の院内情報誌 ロハス・メディカル
月別アーカイブ
サイト内検索