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投薬による降圧は認知症予防に役立つ

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ヨーロッパで、降圧剤治療による認知症予防効果測定を実施したところ、1,000人の高血圧患者を5年間治療すれば20件の認知症予防につながるという結果が出ました。

The Prevention of Dementia With Antihypertensive Treatment 
New Evidence From the Systolic Hypertension in Europe (Syst-Eur) Study
Françoise Forette, MD; Marie-Laure Seux, MD; Jan A. Staessen, MD, PhD; Lutgarde Thijs, MSc; Marija-Ruta Babarskiene, MD; Speranta Babeanu, MD; Alfredo Bossini, MD; Robert Fagard, MD; Blas Gil-Extremera, MD; Tovio Laks, MD; Zhanna Kobalava, MD; Cinzia Sarti, MD; Jaakko Tuomilehto, MD; Hannu Vanhanen, MD; John Webster, MD; Yair Yodfat, MD; Willem H. Birkenhäger, MD;
Arch Intern Med. 2002;162(18):2046-2052. doi:10.1001/archinte.162.18.2046.

川口利の論文抄訳

発行人の実兄。上智大学文学部卒。千葉県立高校の英語教師在任中に半年間の英国留学を経験。早期退職後に青年海外協力隊員となって、ホンジュラスで勤務、同じく調整員としてパナマで勤務。

降圧剤の二重盲検・プラセボ対照試験であるSystolic Hypertension in Europe (Syst-Eur)で、試験終了後も無作為抽出者の長期効果測定を実施して解析した。当初の試験は、60歳以上の認知症ではない高血圧患者を対象に、降圧剤治療を受ける群と対照群に分けて脳卒中予防効果を見るもので、同時に認知機能も調べていた。

 登録時の収縮期血圧は160~219mmHg、拡張期血圧は95mmHg未満だった。座位収縮期血圧が150mmHg未満へ20mmHg以上下がるよう、ニトレンジピン10~40mg/日を中心に、エナラプリルマレイン酸塩5~20 mg/日、ハイドロクロロサザイド12.5~25 mg/日のどちらか、または両方を追加した。第2中間解析時、脳卒中に関して有意な効果が得られたことから、1997年2月14日に試験は早期終了となった。しかし、様々な倫理的および科学的理由から、非盲検で同じ対象者による元々と同じ薬剤に基づく積極的治療追跡調査研究へSyst-Eur 2として延長し、認知機能への影響を調べた。

 追跡調査を通じて、1,417人の対照群と1,485人の積極治療群での収縮期血圧/拡張期血圧は、対照群が治療群よりも7.0/3.2mmHg高くなっていた。そして、対照群と比較して、長期降圧治療は認知症発症を1,000患者・年あたり7.4人から3.3人へとリスクを55%減少させた。1,000人の患者を5年間治療することは、認知症20件を予防できることとなる(信頼区間 95% 7~33件)。


●背景

 高血圧は、血管性認知症とアルツハイマー病両方のリスクを上げることと関連がある。全世界的な長寿化の点から見て、認知症予防は、主要な公衆衛生問題になってきている。二重盲検のSyst-Eur試験で、無作為抽出患者において、プラセボ群と比較して、降圧治療が認知症発生率を50%、1,000患者・年あたり7.7人から3.8人に減少させ、全体でプラセボ群21件の発症に対して治療群11件(P=0.05)の発生という結果となった。しかしながら、別の研究者たちは、両群合わせての認知症発生件数が32件しかなかったことを主な理由に、この成果推定は限界のある値であることを示した。
 
 本論文においては、Syst-Eur 2開始後からのみ積極的治療を受けた群と、当初から積極的降圧治療を受けてきた群での認知症発症割合を更新した。

●方法

 ジヒドロピリジン系カルシウムチャネル遮断薬ニトレンジピン10~40mg/日、これにエナラプリルマレイン酸塩5~20 mg/日、ハイドロクロロサザイド12.5~25 mg/日、または両方を追加することも可能であったし、ニトレンジピンの代わりに使用することも可能であった。プラセボ群では、対応するプラセボが同様に用いられた。二重盲検が終了した後は、当初プラセボ群に振り分けられた対象者にも積極的治療が提供された。薬剤は、段階的に、座位収縮期血圧が150mmHg未満へ20mmHg以上下がるように容量設定され、場合によって組み合わされた。

 研究者たちは、ベースライン時と年1回の訪問時に対象者の認知機能を、ミニメンタルステート検査によりスクリーニングした。引き続く認知症の存在と原因確立のための診断手順は、ミニメンタルステート検査得点が23以下の場合、患者・親族・臨床的兆候により報告される症状が認知症を示している場合、または何らかの理由により予定されたミニメンタルステート検査が実施されなかった場合に開始された。認知症診断は、Syst-Eurが始まった1988年当時に一般的であった「精神障害の診断と統計の手引き-第3改定版」の基準に従い、認知症診断が確定した場合は、CTによる脳画像を含む修正版虚血スコアが変性疾患と血管疾患を区別した。CTスキャンができなかった場合は、ハチンスキー虚血スコアを用いて、認知症の原因を確証した。対象者情報が伏せられた委員会ですべての認知症例が確認され、情報を伏せられた独立した神経放射線科医がCTスキャン調査を行った。患者の機能状態評価のため、日常生活動作自立度が無作為抽出時に記録され、以降毎年更新された。


●結果

 ヨーロッパ19カ国106のセンターにおいて、3,228人の患者が登録された。このうち、ベースライン時に認知症のあった9人、認知障害可能性のあった59人を除外し、2000年12月1日に追跡調査が計画された。準備の整わない対象者が258人いたため、最終的に2,902人が研究に含まれた。

 当初のプラセボ群1,417人と当初の積極治療群1,485人における特性は同様となっていた。ランダム化時点での年齢中央値は68歳、幅は60~92歳。平均BMI±標準偏差は、男性984人においては26.6±3.2、女性1,918人においては27.3±4.4。全体の26.3%にあたる764人は、先に心血管合併症を有していた。プラセボ群に抽出されたうちの1.2%17人、積極治療群に抽出されたうちの1.3%20人には、脳卒中歴があった。平均修学年数±標準偏差は、16.7年±4.5であった。

 当初のプラセボ群での追跡調査患者・年は5,849、当初の積極治療群での追跡調査患者・年は6,359となった。全体として、最初の無作為抽出からの追跡調査期間中央値は3.9年(四分位数範囲(*1) 2.8~5.6年)となった。最終追跡調査時訪問における非治療者は、対照群25.2% 対 積極治療群3.0% P<0.001となっており、これは対照群のうちの19.5%にあたる277人は二重盲検に使用されたプラセボのみ服用していたことによる。最終訪問時の対照群平均収縮期血圧は156.1mmHg±12.0で拡張期血圧は82.5mmHg±6.0、積極治療群では収縮期血圧149.1±9.7で拡張期血圧79.4±6.1となった。追跡調査期間全体でのベースライン時を除いた2群間の正味血圧差は、収縮期血圧7.0mmHg(信頼区間95% 6.2~7.8mmHg)、拡張期血圧3.2mmHg(信頼区間95% 2.8~3.6mmHg)P<0.001であり、8年目においても、これらの差異は有意なままで(P<0.01)、平均で収縮期血圧4.2mmHg(信頼区間95% 1.5~6.9mmHg)、拡張期血圧2.9mmHg(信頼区間95% 1.5~4.4mmHg)となった。

 64件の認知症例が確認され、「精神障害の診断と統計の手引き-第3改定版」の基準からの診断が55件、入手可能な医療記録からの診断が6件、ミニメンタルステート検査23点以下および調査者による文書での診断確定からが3件となった。41件はアルツハイマー病、19件は混合型または血管性認知症だった。51人に修正版虚血スコアによる病因診断がされ、うち47人は脳のCT画像診断も受けており、ハチンスキー虚血スコアによる診断は9件あったが、全体で4名の患者については認知症の原因を特定できなかった。

 診断時、対照群での追跡調査期間中央値は3.8年(四分位範囲数 2.7~5.9年)、積極治療群では3.4年(四分位範囲数 1.7~5.2年)となった。64件中男性は12件、女性は52件となり、性別による割合は、男性2.9件/1,000患者・年に対して、女性6.5件/1,000患者・年、差異は55%(信頼区間95% 16%~76% P=0.02)となった。診断年齢中央値は79歳だった。認知症発現以前に、対照群2人・積極治療群1人の合計3人が脳卒中を、対照群2人・積極治療群1人の合計3人が一過性虚血発作を経験していた。

 全体での認知症発生率は、5.2件/1,000患者・年だったが、対照群43件に対して積極治療群21件となり、長期にわたる積極治療が55%(信頼区間95% 24%~73%)認知症発生率を低下させ、積極治療群3.3件に対して対照群7.4件/1,000患者・年 P<0.001)となった。アルツハイマー病・混合型認知症・血管性認知症において低下が見られた。対照群で観察された割合から、1,000人の患者が5年間の降圧治療を受けていたら、20件の認知症が予防できたこととなる(信頼区間95% 7~33件)。ベースライン時のミニメンタルステート検査得点は、両群とも29点(四分位範囲数 27~30点 P=0.94)であり、以降の得点変化も両群同様であった。

 最終訪問時に、日常生活動作得点が、60人の認知症患者(対照群41人・積極治療群19人)および非発症者2,815人(対照群1,364人・積極治療群1,451人)に関して記録され、中央値は6(四分位範囲数6~6 範囲0~6点)となった。認知症のある・なしにかかわらず、最終訪問時での日常生活動作得点分布における差異は見られなかった(P>0.68)。しかしながら、登録時と最終追跡調査時では、非発症者と比較して、発症者の方が低い方へと動いていた。登録時、最高得点6よりも低い得点が発症者の5%に見られたのに対して非発症者では1%のみ(P<0.001)、最終訪問時では、発症者の42%に見られたのに対し非発症者では4%(P<.001)であった。

 段階的分析においては、認知症リスクは、ベースライン時の年齢と拡張期血圧によって上がっていた。より修学年数が多い方、男性において、よりリスクが低くなっていた。年齢が5年増えることによるハザード比が2.10(信頼区間95% 1.76~2.50 P<0.001)、拡張期血圧が5mmHg増加することによるハザード比が1.39(信頼区間95% 1.08~1.81 P=0.01)、修学年数が1年増加することによるハザード比が0.88(信頼区間95% 0.82~0.95 P<0.001)、女性と比較して男性のハザード比は0.53(信頼区間95% 0.27~1.03 P=0.06)となった。

 当初の無作為抽出での積極治療群におけるハザード比は0.43(信頼区間95% 0.25~0.74 P=0.003)と統計的に有意となったが、ベースライン時の収縮期血圧が10mmHg上がることによるハザード比は1.07(信頼区間95% 0.84~1.36 P=0.58)となり、有意とはならなかった。また、脈圧も認知症リスク予測には有意とならなかった。

 さらに、ニトレンジピンの認知症発症に対する効果分析を実施した。ニトレンジピン服用を時間依存変数として捉えると、粗ハザード比は0.30(信頼区間95% 0.18~0.50 P<0.001)、性別・時間依存変数としての治療年齢・修学年数・登録時拡張期血圧で補正を加えたモデルで0.38(信頼区間95% 0.23~0.64 P<0.001)となった。認知症発症以前のニトレンジピン1日あたりの平均服用量を、認知症リスクの独立因子として捉えた場合も同様の結果となり、1日あたり1錠20mg服用量が増えることでの粗ハザード比は0.37(信頼区間95% 0.23~0.61 P<0.001)、補正後ハザード比は0.48(信頼区間95% 0.29~0.78 P=0.003)となった。

●考察

 ファーストラインドラッグとしてジヒドロピリジン系カルシウムチャネル遮断薬ニトレンジピンに基づく降圧剤治療が、認知症発生率を55%下げることが分かったことは、公衆衛生への大きな含みを持つかもしれない。全世界的に長寿化が進む中で、認知症は、すべての人種そしてすべての大陸にとって、障害の主要因となっている。今回の試験で見られた割合からすると、1,000人の高血圧患者を5年間治療することが、20件の認知症予防につながる。本研究結果は、最近の高血圧の活性対象試験結果が概要として、カルシウムチャネル遮断薬は、利尿剤やβ受容体遮断薬に基づく治療よりも脳卒中に対する予防効果がより大きいかもしれないということを示したことに則するものである。血管因子が変性認知症リスクを高めるというエビデンスが増えてきていることを考慮すると、本研究は、高血圧治療開始時での関連作用薬である、長時間作用型カルシウムチャネル遮断薬と利尿剤との前向き比較を、認知症予防において既に求めてきたことになる。

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