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炎症マーカーが高いメタボは認知機能低下リスクあり

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 米国において、地域在住高齢者を対象に、メタボリックシンドロームと認知力低下との関連を調べたところ、メタボリックシンドロームであり炎症マーカー値が高いことが、認知力低下リスクを高めることが分かりました。

The Metabolic Syndrome, Inflammation, and Risk of Cognitive Decline
Kristine Yaffe, MD; Alka Kanaya, MD; Karla Lindquist, MS; Eleanor M. Simonsick, PhD; Tamara Harris, MD; Ronald I. Shorr, MD; Frances A. Tylavsky, PhD; Anne B. Newman, MD, MPH
JAMA. 2004;292(18):2237-2242. doi:10.1001/jama.292.18.2237.

川口利の論文抄訳

発行人の実兄。上智大学文学部卒。千葉県立高校の英語教師在任中に半年間の英国留学を経験。早期退職後に青年海外協力隊員となって、ホンジュラスで勤務、同じく調整員としてパナマで勤務。

●背景

 高血圧や糖尿病のような心疾患および代謝危険因子は、血管性認知症同様にアルツハイマー病の病因における役割を担っていると仮定されてきている。メタボリックシンドロームは、腹部肥満・高トリグリセリド血症・低HDL-C値・高血圧・高血糖症を含むよく起こる障害の一群であるが、高齢者における認知機能低下に対する危険因子として明確に調査されてきてはいない。メタボリックシンドロームは、これらの危険因子の連合影響を合わせ持つものなので、認知機能低下の1危険因子となるかもしれない。米国では肥満と座っての生活様式が増えているため、認知障害のような有害事象発現のリスク増大に対する変更可能な行動の役割を識別し説明することは重要となる。もし、メタボリックシンドロームが認知障害発現のリスク増大と関連があるなら、これらの人々の早期識別と治療が、疾病経過変更に対する手段を提供するかもしれない。

 炎症レベルが高いことは、糖尿病とアテローム性動脈硬化のリスクを上げることになり、メタボリックシンドロームの有害事象に対して可能な仕組みだと考えられている。実際、メタボリックシンドロームの設定における炎症レベルは、有害事象に対するリスクが特に高い人々を識別するのに役立つかもしれない。さらに、炎症の仕組みも認知機能低下の病因に関係あると仮定されていることから、潜在性炎症が、メタボリックシンドロームと認知機能低下との関連の底に潜む因子かもしれない。したがって、本研究では、メタボリックシンドロームが認知機能低下と関係あり、炎症レベルによって加減されるのかどうかを調査した。仮説としては、メタボリックシンドロームの存在が、より認知機能を低下させ、認知障害発現のより大きなリスクとなることと関連があり、この関連は炎症によって加減されるというものであった。

●方法

(1)対象者
 認知障害の割合は人種によって異なるということが示されてきているため、人種はHealth, Aging and Body Composition Study(*1)対象者の自己申告によって定められたが、人種査定を実施した。研究についての説明パンフレットを郵送し、その後、機能状態を確認し、適格者を研究に募集するため電話による連絡が取られた。黒人の応募拡大のため、地域密着活動も展開した。

 自分がよく機能している状態というのは、自己申告によって決定され、休まずに1/4マイル歩くこと、または階段を10段上がることに困難のないことが、研究加入以前に2回、別々の面接で報告された場合と定義した。

 以下の除外基準を設定した。
1 日常生活動作に何らかの支障がある
2 「精神障害の診断と統計の手引き-第4版」の基準に基づく臨床的認知症がある。
3 面接官との意思疎通ができない。
4 翌年に周辺からの引っ越しを計画している。
5 過去3年間においてがんの積極的治療を受けた。
6 生活様式介入を含む治験に参加している。

 メタボリックシンドロームに関するデータ不備が40人、炎症マーカーのデータ不備が70人、ベースライン時認知状態データ不備が16人となり、2,949人が残ったが、このうち死亡した164人、追跡調査に参加しなかった69人、認知力テストを繰り返し受けなかった84人が除外され、最終的に2,632人が研究分析対象となった。メタボリックシンドロームのある群とない群の追跡調査割合は、90.2%対89.2%で同様となった。

(2)認知力検査
 3MSという、ミニメンタルステート検査修正版を用い、ベースライン訪問時にすべての対象者に検査を実施し、追跡調査3年目と5年目の訪問時に同じ検査を繰り返し実施した。
3MSは、簡潔な一般認知検査の組み合わせで、見当識・集中力・言語・実行・即時および遅延記憶要素からなり、最高点は100である。3MSは、伝統的な30ポイントでのミニメンタルステート検査よりも、軽度の認知力変化に対する感度が高くなっている。認知障害は、いずれかの追跡調査において3MSで5点以上変化があった場合と定義した。

(3)メタボリックシンドローム
 全米コレステロール教育プログラムの成人治療パネルⅢガイドラインに基づき、以下の3要素以上があることによりメタボリックシンドロームと定義され、ベースライン時での性別によるメタボリックシンドローム有病者が算出された。
1 腹囲 男性は102cm超、女性は88cm超
2 高トリグリセリド血症 トリグリセリド値150mg/dL以上
3 低HDL-C値 男性は40mg/dL未満、女性は50mg/dL未満
4 高血圧 2回の座位測定平均での収縮期血圧130mmHg以上、または拡張期血圧85 mmHg以上、または降圧剤を使用している
5 高血糖症 空腹時血糖値が110 mg/dL以上、または糖尿病に対するインスリンや経口治療薬を使用している

 臨床的に証明された疾病ではない人に焦点をあてるため、メタボリックシンドロームに対して選択的な定義を設け、以下の対象者を除外した。
1 顕性糖尿病(自己申告、または糖尿病治療薬使用、または空腹時血糖値126 mg/dL以上)
2 完全な高血圧 収縮期血圧140mmHg以上/拡張期血圧90mmHg以上
3 臨床的重度高脂血症 トリグリセリド値200 mg/dL以上 

(4)炎症マーカー
 ベースライン時採取後に凍結された血漿と血清からインターロイキン6(IL-6)およびC反応性蛋白(CRP)測定を実施した。高炎症は、CRP中央値2.0mg/L以上かつIL-6中央値2.0pg/mL以上と定義した。

(5)共変数
 これまでに文献において認知機能またはメタボリックシンドロームと関連あることが示されているものを含めた。
1 ベースライン時に、対象者の年齢・人種・性別・教育年数・喫煙状況・過去1年間のアルコール摂取(1日に1杯超のパーセント)に関する情報を入手した。
2 それぞれのクリニック検査時に、体重および身長計測を行い、BMIはキログラム体重÷メートル身長の二乗と定義した。
3 心筋梗塞および脳卒中傾向が自己申告に基づき評価された。
4 他人と比較して自分の健康状態がどうであるかを、5段階で対象者自身が評価した。
①とても優れている
②優れている
③普通である
④よくない
⑤非常によくない
5 抑うつ症状は、うつ病自己評価尺度により評価され、より高い点数がより多い症状数を示した。
6 処方箋薬およびOTC薬目録が対象者の薬入れから入手され、過去2週間日常的に服薬している場合は、常用者として抗炎症剤やスタチン使用をコード化した。

(6)統計分析
1 補正なし、および多変量補正を加えたロジスティック回帰分析を実施し、メタボリックシンドロームの存在が認知障害確率と関連するのかどうかを測定した。
2 すべてのモデルにおいて、ベースライン時の認知得点は共変数として考慮した。
3 多変量モデルには、認知障害と関連ある共変数を含めた。
4 炎症が、メタボリックシンドロームと認知結果との関連を加減するのかどうかを評価し、炎症レベルで層分けをした分析を実施した。
5 メタボリックシンドロームと4年間での3MS得点変化との関連を変量効果モデルにより分析した。

●結果

(1)対象者特性
 ベースライン時の対象者平均年齢は、73.6歳(標準偏差2.9)、52%が女性、40%が黒人、25%が高炎症マーカー値となった。メタボリックシンドロームではなかった対象者1,616人と比較して、メタボリックシンドロームだった対象者1,016人は、女性・白人・喫煙者である傾向が強く、抑うつ点数・BMI値・心筋梗塞歴がより高く、スタチンや非ステロイド性抗炎症剤使用割合がより高く・高炎症マーカー値となる傾向であった。さらに、いくつかのベースライン時特性は、炎症状態やメタボリックシンドロームの存在により比較すると、統計的な有意差があった。

 メタボリックシンドロームだった人において、全米コレステロール教育プログラムの基準三つに適合したのが56%、四つが33%、五つが11%となった。最も多い適合基準は高血圧で92%、続いて腹囲86%、高トリグリセリド血症65%、低HDL-C値62%、高血糖値または血糖降下薬使用が49%だった。

 全体的に、ベースライン時の3MS得点は平均が90.5点、標準偏差8.0となり、認知障害である3MS得点5点以上低下は、2,632人中22.7%にあたる598人に見られた。ベースライン時の3MS得点は、メタボ群と非メタボ群で有意差はなく、メタボ群平均90.6点(標準偏差7.6)に対し、非メタボ群平均90.4点(標準偏差8.3)であった。しかしながら、非メタボ群と比較すると、メタボ群高齢者は、いくぶんか認知障害傾向が高く、メタボ群26%の260人に対して、非メタボ群21%の338人となり、多変量補正相対危険度は1.20(信頼区間95% 1.02~1.41)となった。

(2)高炎症およびメタボリックシンドロームと認知障害リスク
認知障害に対する高炎症とメタボリックシンドロームとの相互作用評価をした結果、相互作用における有意性は、補正なしのモデルで0.05、年齢・教育年数・人種・ベースライン時認知力検査点・抑うつ点・アルコール摂取・脳卒中・スタチン使用で補正を加えたモデルで0.03となった。この相互作用有意性を考慮し、炎症によって層別分析した。メタボ+高炎症群は非メタボ+高炎症群と比較して、認知障害発現割合が30%対21%、多変量補正相対危険度1.66(信頼区間95% 1.19~2.32)となったが、メタボ+低炎症群は非メタボ+低炎症群と比較しても23%対21%、相対危険度1.08(信頼区間95% 0.89~1.30)となり、有意な認知障害発現とはならなかった。ベースライン時に脳卒中のあった55人を除外して分析を繰り返した結果、ほぼ同じ結果となった。高炎症+非メタボ群は認知障害発現リスクが高まることはなく、低炎症+非メタボ群と比較しても、補正後相対危険度は0.81(信頼区間95% 0.60~1.08)であった。

 さらに、人種で層分けした分析においては、高炎症の黒人および白人ではメタボリックシンドロームと認知障害の関連は高いままだったが、低炎症の場合は高まることはなかった。黒人では、高炎症群補正後相対危険度は1.67(信頼区間95% 1.11~2.53)であったのに対して、低炎症群では1.04(信頼区間95% 0.80~1.36)、白人では、高炎症群1.75(信頼区間95% 0.99~3.08)に対して低炎症群1.17(0.89~1.54)となった。

(3)変量効果モデル
 補正なし、および多変量補正の変量効果モデルでは、高炎症群において、メタボ群が非メタボ群よりも有意に認知力得点低下となっていた。

 次に、メタボリックシンドロームと認知障害との関連が、臨床的に重要な糖尿病・高血圧・高脂血症を有する対象者を除外しても変わらないのかを調べた。これらの対象者は797人を数えたが、認知障害発現リスクは、メタボ+高炎症群では高いままとなったが、統計的に有意ではなくなり、補正後相対危険度は1.35(信頼区間95% 0.83~2.19)となった。メタボ+高炎症群が118人となったことで検出力が弱められた。低炎症群においては、メタボリックシンドロームと認知障害との関連は見られなかった。

 最後に、メタボリックシンドローム、炎症、認知力低下との関係が、メタボリックシンドローム構成要素の数や炎症度合によるのかどうかを評価した。高炎症+メタボ群の場合は、メタボリックシンドローム構成要素の数により認知力低下リスクが変わることはなく、構成要素3群での相対危険度1.64(信頼区間95% 1.13~2.38)に対して、構成要素4または5の群では1.49(信頼区間95% 1.01~2.21)となった。しかしながら、三分位評価による炎症度合が高いほどより認知力低下も大きいことと関連があり、CRPとIL-6のうちどちらか、または両方が最低三分位群では、メタボ群と非メタボ群の補正後相対危険度が1.09(信頼区間95% 0.84~1.40)、炎症マーカーのどちらか、または両方が中間三分位群では1.26(信頼区間95% 1.00~1.59)、炎症マーカーのどちらか、または両方が最大三分位群では1.62(信頼区間95% 1.10~2.38)となった。

●考察

 自身がよく機能しているという高齢者において、メタボリックシンドロームである人々は、4年間において認知障害および認知力低下発現リスク増大を示している。この関連は、人口統計・生活様式・慢性的症状のような考えられる交絡因子で補正を加えてもそのままであった。認知障害増加割合は、主に血清炎症マーカー値の高い高齢者に見られ、メタボリックシンドロームと関連するリスク増大のある部分が炎症によって加減されることを示している。知る限りにおいては、本研究が初めてメタボリックシンドロームと認知力欠乏が関連することを証明したことになる。

 メタボリックシンドロームの認知機能に対する有害事象を炎症がどのくらい説明することになるのか? 例えば、血圧管理がうまくできていて脂質異常症境界域にいる人は、血圧管理・肥満管理・高血糖症管理がうまくできていない人と比較して、有害事象リスクが顕著に異なるかもしれないのである。この仮定に対していくつかのエビデンスを本研究により見出しており、メタボリックシンドロームと認知障害との関連は、糖尿病・高血圧・高脂血症といった臨床的に重要な疾病を抱える人を除いた場合に幾分か減ったのである。大体において、メタボリックシンドロームは炎症反応であるところのアテローム性動脈硬化進行の原因となり、次々にアテローム性動脈硬化または炎症、あるいは双方が認知力低下の原因となっていく。しかしながら、炎症とメタボリックシンドロームとの関連方向性は議論の余地があり、メタボリックシンドロームは潜在性炎症によるものだとする向きもあるが、認知障害を含め、メタボリックシンドロームの有害事象にかかりやすくさせる高炎症反応への遺伝的素因があるのかもしれない。

 本研究の長所として、ベースライン時に認知症ではなく自身がよく機能しているという高齢者を対象としたことにより、メタボリックシンドロームが認知障害や認知力低下に影響を与えるのかどうかを前向きに調査できたことが挙げられる。ベースライン時の認知力得点が、メタボ群と非メタボ群において差異は認められなかったことでよく機能している状況は説明される。本コホートにおける39%のメタボリックシンドローム有病率は、他の高齢者研究において見られたのと同様である。対象者を注意深く評価したデータによって、考えられる交絡因子での補正を統計学的に可能にした。本コホートには、白人と黒人の両方が含まれていたことにより、メタボリックシンドロームと認知障害との関連は、どちらの人種においても同様であると確認できた。

 結論を述べると、よく機能している高齢者において、メタボリックシンドロームであることが認知障害発現リスクを高め、このことは、人口統計・健康習慣・余病を考慮に入れても変わりなかったということである。このことは、主として炎症マーカー値の高い高齢者に当てはまることになる。

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