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女性はアディポネクチン濃度が高いと認知症リスクが高まる

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 おなじみのFramingham Heart Studyコホートにおいて、グルコース恒常性マーカーと炎症マーカーが認知症の危険因子になるかどうかを調べたところ、女性においては、アディポネクチン濃度が高いことがアルツハイマー病を含む認知症リスクを高めることが分かりました。

Biomarkers for Insulin Resistance and Inflammation and the Risk for All-Cause Dementia and Alzheimer Disease Results From the Framingham Heart Study Thomas M. van Himbergen, PhD, Alexa S. Beiser, PhD, Masumi Ai, MD, Sudha Seshadri, MD, Seiko Otokozawa, MT, Rhoda Au, PhD, Nuntakorn Thongtang, MD, Philip A. Wolf, MD, and Ernst J. Schaefer, MD Arch Neurol. 2012 May; 69(5): 594-600. doi: 10.1001/archneurol.2011.670


川口利の論文抄訳

発行人の実兄。上智大学文学部卒。千葉県立高校の英語教師在任中に半年間の英国留学を経験。早期退職後に青年海外協力隊員となって、ホンジュラスで勤務、同じく調整員としてパナマで勤務。

●背景

 認知症は、記憶喪失と認知低下によって臨床的に特徴づけられる神経変性疾患である。世界アルツハイマーレポートによると、現在全世界で約3千6百万人が認知症による影響を受けており、この数は次の20年でほぼ2倍になるだろうと推定されている。認知症のすべての型の中で、アルツハイマー病が最も多く、認知症高齢者の80%にまで及ぶ。

 年齢・家族歴・アポリポ蛋白E4対立遺伝子というアルツハイマー病の定着した危険因子に加えて、先行研究で血漿中の高濃度ホモシステインが認知症の独立した危険因子であるとの発見がされ、一方で血漿中の高濃度ドコサヘキサエン酸(DHA)は、認知症発現リスクを有意に低下させた。さらに、データによると、2型糖尿病・高血圧・肥満などの心疾患危険因子の管理が認知低下も減らすかもしれないことを示しているが、臨床的アルツハイマー病発現リスクに対するその影響はよく分かっていない。

 インスリン抵抗性と炎症は2型糖尿病の重要な特徴であり、2型糖尿病と認知症の関連を説明する潜在的仕組みを与えることができるかもしれない。アルツハイマー病や認知症の病態におけるインスリンの中心的役割が示唆されてきており、認知低下を遅らせるためのインスリン抵抗性改善薬を用いた介入試験が進んでいるが、インスリンと糖耐性の役割については不確実性が残っている。同様に、炎症マーカーであるリポ蛋白関連ホスホリパーゼA2(Lp-PLA2)は認知症発症リスクと関連づけられてきており、C反応性蛋白は認知低下および認知症リスクと関連あることを示すエビデンスがあるが、他の報告ではそのような関連は見出されなかった。知る限りでは、20年にまで及ぶ追跡調査をされた単一の地域密着型老齢者コホートにおいて、グルコース恒常性と炎症マーカー測定を同時に認知症発症リスクに関連づけた先行研究は存在しない。

 アルツハイマー病や全認知症発症原因となるかもしれないさらなる潜在的因子はアディポネクチンである。アディポネクチンは内臓脂肪から分泌されるホルモンで、インスリンに対する感受性を増加させ、抗炎症特性を有し、糖と脂質の代謝において役割を果たしている。より高い濃度のアディポネクチンは2型糖尿病リスクを低下させることが示されてきており、脳内を含めて、体中にアディポネクチン受容体遺伝子の広範な発現がある。アディポネクチン濃度が高まることはインスリンの信号伝達と2型糖尿病管理に対する有益効果があることが示されてきているという事実にもかかわらず、アディポネクチン濃度が高いことは、総死亡率リスク増大とも関係づけられてきている。さらに、内臓脂肪過多による肥満、あるいは中心性肥満は、より少ない脳容積やより高いアルツハイマー病リスクと関連づけられてきている。アディポネクチン濃度もレプチンおよび脳由来神経栄養因子と負の相関にあり、この両方ともが認知症やアルツハイマー病発症リスクをより低くすることと関連づけられている。

 本研究では、インスリン信号伝達と炎症という2型糖尿病の基にある因子が、全認知症とアルツハイマー病発現の原因にもなるかもしれないとの仮説を立てた。さらに、インスリン信号伝達においてアディポネクチンが果たす役割、および神経組織内におけるアディポネクチン受容体の存在に基づき、アディポネクチンは全認知症とアルツハイマー病発現の原因になる、あるいはリスクマーカーとして働く、との仮説を立てた。この仮説を調べるため、対象者が全認知症とアルツハイマー病に対する追跡調査を受けた前向きコホート研究であるFramingham Heart Study(*1)において、グルコース恒常性尺度として血漿中のアディポネクチン・ブドウ糖・糖化アルブミン・インスリンを、炎症尺度としてLp-PLA2・C反応性蛋白濃度を測定した。

●方法

(1)対象者およびアルツハイマー病と全認知症の診断
 Framingham Heart Studyの認知症研究コホートは、14回目検査時に神経心理学的組み合わせ検査を受けた55~88歳の対象者で認知的に完全であると判定された3,349人で構成されている。1985~1988年に実施された19回目検査において、2,337人が生存しており認知症にかかっていなかった。このうち、1,370人が19回目検査を受け、少なくとも1年の追跡調査データを有した。血漿中のアディポネクチン濃度測定を受けた対象者のうち数人が除外され、最終的研究標本は、男性299人、女性541人、合計840人、平均年齢72歳となった。

 認知症研究コホート対象者は、コホート加入時から脳卒中と認知症発現に対する監視を受けてきている。対象者は、2年に1回の毎検査時に、認知機能評価法であるミニメンタルステート検査を常に受けさせられた。境界点より低い得点になった者、直近の前回試験から3点以上得点が下がった者は、神経学的および神経心理学的検査のため再調査された。認知症可能性大のそれぞれの症例に対しては、少なくとも1人の神経科医と神経心理学者からなる委員会によって詳細に症例の再調査が実施された。委員会は、一連の神経学的および神経心理学的評価・家族または介護者との電話面接・医療記録・画像研究結果を用いて、認知症の型と診断日を決定した。認知症診断は、精神障害の診断と統計の手引き-第4版の基準に従い決定された。アルツハイマー病は、国立神経疾患・脳卒中研究所およびアルツハイマー病協会の、確実なアルツハイマー病・アルツハイマー病の可能性あり・アルツハイマー病の可能性大という基準に合う対象者に診断が下された。追跡調査期間中に脳卒中となった対象者は除外されなかった。19回目検査時以降2009年12月31日までに確認されたすべての認知症例が含まれ、24年にまで及ぶ縦断的追跡調査となった。

(2)ラボ分析
 19回目検査で血液が採取され、以下の測定等が行われた。
1 アポリポ蛋白E遺伝子型
2 血漿総ホモシステイン濃度
3 クレアチニン濃度
4 DHA濃度
5 インスリン値
6 血糖値
7 糖化アルブミン値
8 Lp-PLA2値
9 高感度C反応性蛋白濃度
10 アディポネクチン濃度

(3)追加危険因子
19回目検査時に収集されたデータに基づき、血漿中マーカーと認知症あるいはアルツハイマー病との関係を潜在的に混乱させる危険因子が定義された。
1 教育水準は、ハイスクール卒業を境に二分された。
2 糖尿病は、随時血糖値が少なくとも200mg/dLある場合、以前に糖尿病診断を受けた場合、血糖降下剤の使用がある場合、インスリン使用がある場合と定義された。
3 収縮期血圧とBMIは、連続変数として扱われた。
4 体重変化は、以前の検査のうちの1回で記録された体重からの変化と定義された。19回目検査時から平均4.3年前となり、幅は2~6年となった。

(4)統計分析
 研究マーカー値と全認知症およびアルツハイマー病発生率との関係を調べるため、比例ハザード回帰モデルを使用した。

 一次的分析は、年齢と性別で補正を加えた。補足分析は、さらにBMI・体重変化・アポリポ蛋白E4対立遺伝子の有無・DHA濃度・教育水準で補正を加えた。サブセット分析は、血清クレアチニンと血漿ホモシステイン測定値が入手できる550人で実施した。血漿アディポネクチン値も中央値カットオフに基づく分析で評価された。テストステロンは、選択的に脂肪細胞からのアディポネクチン分泌を阻害し、男性においては血中アディポネクチン濃度が低くなる結果になる。このことを考慮に入れ、性別による相互作用を調べ、性別で層分けした分析も実施した。追跡調査期間中に脳卒中となった人は、脳卒中が研究マーカーの血漿中での値が上昇することと認知症発現との間の原因経路に沿うものであり得るので、除外しなかった。

●結果

 コホートは、中央値13年の追跡調査を受け、追跡調査期間中に159人が認知症を発現し、そのうちアルツハイマー病が125件含まれていた。

 アディポネクチン・インスリン・糖化アルブミン・ブドウ糖・Lp-PLA2・高感度C反応性蛋白濃度の標準偏差1上昇に対する、全認知症およびアルツハイマー病の年齢・性別で補正を加えたハザード比を算出したところ、ベースライン時のアディポネクチン・インスリン・糖化アルブミン・ブドウ糖・Lp-PLA2濃度は、全認知症ともアルツハイマー病とも関連がなかった。しかしながら、血漿高感度C反応性蛋白濃度が高いことは、全認知症およびアルツハイマー病両方のリスク低下に関連があり、全認知症に対するハザード比は0.78(信頼区間95% 0.66~0.93 P=0.004)、アルツハイマー病に対するハザード比は0.79(信頼区間95% 0.65~0.95 P=0.01)となった。

 補正にBMIと体重変化を加えても、血漿高感度C反応性蛋白濃度は全認知症およびアルツハイマー病両方に保護的なままであり、全認知症に対するハザード比は0.78(信頼区間95% 0.65~0.93 P=0.006)、アルツハイマー病に対するハザード比は0.82(信頼区間95% 0.67~1.00 P=0.048)となった。さらに他の危険因子で補正を加えると、統計的有意性は見られなくなった。

 性別による有意な相互作用がアディポネクチンに見られた(P<0.05)ので、男性と女性で分析を実施したところ、女性においては、ベースライン時のアディポネクチン濃度がより高いことが全認知症およびアルツハイマー病のより高いリスクを有意に予測していた。全認知症に対するハザード比は1.31(信頼区間95% 1.07~1.61 P=0.009)、アルツハイマー病に対するハザード比は1.32(信頼区間95% 1.06~1.65 P=0.02)となった。

 血漿アディポネクチン濃度とBMIおよびウェスト・ヒップ比との間には、男女ともに負の関連があった。特に女性において強い相関が見られ、BMIとの相関係数r=-0.36、ウェスト・ヒップ比とはr=-0.37(両方ともP<0.001)となった。血漿アディポネクチン濃度と体重差との相関はより弱いものであり、女性においてのみ有意となった。

 女性における多変量補正モデルでも、血漿アディポネクチン濃度は、全認知症およびアルツハイマー病のわずかに有意な危険因子のままとなり、全認知症に対するハザード比は1.29(信頼区間95% 1.00~1.66 P=0.54)、アルツハイマー病に対するハザード比は1.33(信頼区間95% 1.00~1.76 P=0.50)となった。クレアチニンおよびホモシステイン濃度データのある女性において、それらで補正を加えた分析をしてもハザード比は変わらず、クレアチニンやホモシステイン濃度は交絡要因ではないことを示した。

 アディポネクチン中央値をしきい値として女性での分析を実施したところ、多変量補正モデルにおいても、中央値より高い群の女性は、全認知症およびアルツハイマー病リスクが有意に高くなった。中央値より低いアディポネクチン濃度の群と比較して、全認知症のハザード比は1.63(信頼区間95% 1.03~2.56 P=0.04)、アルツハイマー病のハザード比は1.87(信頼区間95% 1.13~3.10 P=0.01)となった。

●考察

 アルツハイマー病や全認知症の危険因子は、心血管疾患(CVD)の危険因子と部分的に重なり合う。CVDの重要な危険因子の一つは2型糖尿病であり、本研究の目的は、グルコース恒常性と炎症のマーカーのアルツハイマー病や全認知障害に対する寄与調査をすることであった。血漿インスリン・ブドウ糖・糖化アルブミン濃度がアルツハイマー病や全認知症と関連するという兆候は見出せなかった。併せて、炎症マーカーであるLp-PLA2もアルツハイマー病や全認知症との関連がなかった。もう一つの炎症マーカーである高感度C反応性蛋白は、その血漿濃度がより高いことがアルツハイマー病および全認知症リスクをより低くすることと関連があったが、アポリポ蛋白E4対立遺伝子を含む補正を加えると有意性は見られなくなった。

 本研究データは、女性においては、アディポネクチン濃度が全認知症およびアルツハイマー病の独立した危険因子になることを示した。アディポネクチンの主要な特徴の一つは、インスリン感受性を高める役割を果たすことが示されてきており、それ故に2型糖尿病治療の治療目標となるかもしれないのである。驚くことに、より高い濃度のアディポネクチンは総死亡率および血管疾患死亡率の予測因子であることが発見された。死亡率に関する研究結果と同時に、最近の調査が、アディポネクチン濃度が高くなることは女性における全認知症およびアルツハイマー病に対する独立した予測因子でもあることを示している。日本における最近のある横断的研究でも、アディポネクチン濃度が高いことは軽度認知障害やアルツハイマー病と関連あることを見出した。

 そこより高いアディポネクチン濃度は全認知症やアルツハイマー病の危険因子になるという、女性におけるアディポネクチンしきい値効果を本研究で見出した事実は、男性においてアディポネクチンの影響がないのは、男性は全認知症やアルツハイマー病のリスク増加になるしきい値より低いアディポネクチン濃度であることを反映している可能性がある。アディポネクチン濃度に関する男女差が、別の研究において男性の方でアルツハイマー病リスクがより低かったことを部分的に説明しているのかもしれない。

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