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性ホルモンと末梢動脈疾患リスクの関係

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 おなじみのFramingham研究において、男女それぞれ性ホルモンと末梢動脈疾患やその指標となる足関節上腕血圧比との関連を調べたところ、男性で男性ホルモン濃度が低いこと、女性ホルモン濃度が高いこと、はリスク上昇と関連あるらしいことが分かりました。

Relation between Sex Hormone Concentrations, Peripheral Arterial Disease, and Change in Ankle-Brachial Index: Findings from the Framingham Heart Study
Robin Haring, Thomas G. Travison, Shalender Bhasin, Ramachandran S. Vasan, Henri Wallaschofski, Maithili N. Davda, Andrea Coviello,* and Joanne M. Murabito*
J Clin Endocrinol Metab. 2011 December; 96(12): 3724-3732.
Published online 2011 September 20. doi: 10.1210/jc.2011-1068

川口利の論文抄訳

発行人の実兄。上智大学文学部卒。千葉県立高校の英語教師在任中に半年間の英国留学を経験。早期退職後に青年海外協力隊員となって、ホンジュラスで勤務、同じく調整員としてパナマで勤務。

●背景

 末梢動脈疾患(peripheral artery disease = PAD)は、アテローム性動脈硬化症の最も多い兆候の一つで、ヨーロッパと北アメリカにおいて約2千7百万人に影響を及ぼしている。PADは、心血管疾患罹患率および死亡率の強力で独立した危険因子である。PADの早期指標としての足関節上腕血圧比(ankle-brachial index = ABI)が低いことも、後発の心血管疾患(CVD)や死亡率のリスクを高めることに関連づけられてきている。いくつかの前向き調査は、男性で総テストステロン濃度が低いことは、肥満・メタボリックシンドローム・糖尿病・脂質異常症・高血圧・死亡率を含む、より好ましくない心血管リスクプロファイルと関連があることを示してきた。テストステロン、性ホルモン結合グロブリン(SHBG)、CVDの関係に関する先行する研究が、女性では相異なる結果を導き出した。しかしながら、ほとんどの女性研究は、テストステロン濃度がより高くSHBG濃度がより低いことが、内臓脂肪蓄積・インスリン抵抗性・有害な脂質像・糖尿病・潜在性アテローム性動脈硬化症・CVD発症リスク増加を含む有害なCVD危険因子プロファイルと関連あることを示している。

 性ホルモン・ABI・PADと心血管危険因子・罹患率・死亡率との間に、示唆されたような関連があるとすると、血中性ホルモン濃度とABIおよびPADを関係づけるデータが非常に限られていることは興味をそそる。今日まで、遊離テストステロン濃度が低いこととPAD罹患との間に正方向の相関関係があると報告する、高齢男性における横断的研究が一つ存在するのみである。しかし、横断的研究は因果関係を評価できる能力に限りがあり、観察された関連に対する有向性はこれらの研究からは全く推測できない。したがって、性ホルモンとPADとの前向きな関連に対するエビデンスは今日まで欠けており、本研究において、血中性ホルモン濃度とABIおよびPADとの横断的ならびに縦断的関連を、地域密着型Framingham Offspring Study(*1)コホートにおいて調査した。

●方法

(1)対象者
 1998~2001年に実施されたFramingham Offspring Study7回目検査時に個人診察を受けた3,334人の対象者中、保存血清が不十分で性ホルモンデータ不備となった176人、7回目検査時のABI不備83人、ABIが1.4超となった15人、前立腺がんに対するロイプロリドやテストステロン交換など性ホルモンに影響を与える可能性のある薬剤使用を報告した男性4人、経口避妊薬を服用している女性19人、7回目検査において閉経状況が明確ではなかった女性3人を除外した。31.6%という高い割合であったため、ホルモン補充療法を受けている閉経後の女性は除外せず、このサブグループを含めた補助分析を実施した。最終的な研究対象は、男性1,422人、女性1,612人、合計3,034人となり、このうち2,473人が8回目検査においてABI測定を受け、2回の検査間でのABI変化のための縦断的分析適格者となった。

(2)性ホルモン測定
 血清サンプルは、1晩約10時間の絶食後、午前8時から9時の間に仰臥位にて前肘静脈から採取した。サンプルは等分され、直ちに-80℃にて保存され、分析時まで凍結したままにした。以下の測定が実施された。
1 総テストステロン濃度、総エストラジオール濃度、エストロン濃度は、液体クロマトグラフィー・タンデム質量分析法により測定
2 SHBGは、蛍光免疫測定法により測定
3 遊離テストステロンは、総テストステロンとSHBGから算出

(3)足関節上腕血圧比(ABI)
 足関節上腕血圧測定は、7回目および8回目検査時に実施された。収縮期血圧は両腕と両足首で2回ずつ測定した。1回目と2回目の差異がいずれかの場所で10mmHgより大きかった場合は、さらに1回追加した。ABIは、足首の平均収縮期血圧÷より平均が高い方の腕の収縮期血圧で算出した。ABIの低い方を分析に用い、臨床的に意味のあるABIの変化をベースライン時と追跡調査時で少なくとも0.15の低下と定義した。ABI低下におけるこの水準は、有意にCVDリスク増加と関連があるからである。

(4)複合臨床的末梢動脈疾患(PAD)
 間欠性跛行は、上り坂を歩いたり早く歩いたりすることと関連して運動性腓腹筋不快感があり、休息すると楽になるかどうかを尋ねる、医師による標準的質問票により評価された。間欠性跛行を示す回答をした対象者には2人の医師がそれぞれ面接をした。3人の上席研究者による最終委員会ですべての医療エビデンスを調査し、最終的な間欠性跛行診断を下した。対象者は、下肢バイパス術や経皮的血管形成術を含む血管再生処置についても尋ねられた。最終委員会は、すべての心血管処置を確認するため病院記録を使い、処置日および処置タイプが記録された。PADは、ABI0.09以下、間欠性跛行、下肢血管再生を含む複合的結果と定義された。

(5)共変数
 社会人口統計学的、行動関連特性が、医療記録や医薬品使用同様に標準的個人面接によって評価された。
1 現在喫煙者は、検査前年に少なくとも1日1本を日常的に喫煙していたと報告した場合とした。
2 腹囲、身長、体重は立位で計測し、BMIはキログラム体重÷メートル身長の二乗で算出した。
3 検査医により安静後血圧が2回測定され、平均値が高血圧判定に用いられた。
4 高血圧は、収縮期血圧140mmHg以上、または拡張期血圧90mmHg以上、または抗高血圧薬使用を自己申告した場合とした。
5 糖尿病は、空腹時血糖値126mg/dL以上、または自己申告によるインスリン使用や経口血糖降下薬使用がある場合とした。
6 空腹時血清総コレステロール濃度およびHDL-C濃度は、標準的酵素法で測定した。
7 CVD傾向は、冠動脈性心疾患(認識されているもの無認識のものを含めて心筋梗塞・狭心症・冠動脈不全・冠動脈性心疾患死)、脳血管疾患(脳卒中・一過性虚血発作)、うっ血性心不全により評価され、治療歴・研究におけるクリニックでの健康診断・入院記録の助けをもとに確認され、最終委員会が決定を下した。

(6)統計分析
 性ホルモン濃度は、四分位に分類した。周知の性ホルモン影響における性的二型性を考慮し、性別に特化したモデルとした。女性においては、さらに閉経状態と閉経後のホルモン補充療法使用とで層分けした。それぞれの性ホルモンに関して、独立した分析がされた。

 年齢・腹囲・喫煙状況・総コレステロール・HDL-C・糖尿病・高血圧・CVD傾向による補正を加えた、多変量線形回帰モデルおよび多変量ロジスティック回帰モデルを用い、回帰係数およびオッズ比を推定した。

 性ホルモン濃度とベースライン時および追跡調査時におけるABIの意味ある変化0.15以上低下との縦断的分析は、多変量ロジスティック回帰を用いてベースライン時にPADのなかった対象者のみで実施した。

●結果

 臨床的末梢動脈疾患(PAD)は、男性の6.3%にあたる89人、閉経前女性の3.7%にあたる19人、閉経後ホルモン補充療法を受けていない女性の6.7%にあたる59人で有病が確認された。

 横断的多変量線形回帰モデルでは、より低い遊離テストステロン濃度とより高いエストロン濃度の男性が、有意により低いABIであることが判明し、遊離テストステロンに関しては、最高四分位を比較基準とした時の最低四分位における標準化偏回帰係数β=-0.02(信頼区間 95% -0.04~-0.01)、エストロンに関しては最低四分位を比較基準とした時の最高四分位における標準化偏回帰係数β=-0.03(信頼区間 95% -0.05~-0.01)となった。総テストステロン/エストロンと総テストステロン/エストラジオールの割合は、より高いABIとの関連があった。

 さらに、男性におけるより低い総テストステロン濃度とSHBG濃度は、年齢補正モデルでPAD傾向と関連があり、有意傾向は見られなかったものの、最高四分位を比較基準とした時の最低四分位オッズ比は総テストステロン2.24(信頼区間 95% 1.17~4.32)、SHBG2.06(信頼区間 95% 1.07~3.96)となったが、多変量ロジスティック回帰モデルにおいては関連性は見られなかった。

 同様に、より高い総テストステロン/エストロン割合が、年齢補正モデルにおいてはPAD傾向に対する防御効果を示し、最低四分位を比較基準とした時の最高四分位オッズ比は0.34(信頼区間 95% 0.17~0.69)となったが、多変量ロジスティック回帰モデルにおいてはそのような結果は出なかった。

 女性においては、いずれの性ホルモンもABIとの横断的関連は見られず、PAD傾向数(81人)は、閉経および閉経後ホルモン補充療法で層分けすると、意味ある推値を出すにはあまりにも低過ぎた。

 中央値6.7年の追跡調査期間にわたり、ベースライン時と追跡調査時で実質的に0.15以上の低下というABIにおける意味ある変化を経験した者が69人いたものの、男性におけるABI値分布には統計的に有意な差異は見られなかった。多変量ロジスティック回帰モデルでは、ベースライン時PADではなく8回目検査データのある1,076人の男性におけるベースライン時SHBG濃度とABIの意味ある変化との関連を明らかにした。SHBGのオッズ比は、最高四分位群と比較して、最低四分位群が2.56(信頼区間 95% 1.01~6.45)、第2四分位群が2.28(信頼区間 95% 0.98~5.32)、第3四分位群が2.93(信頼区間 95% 1.31~6.52)、P=0.07となった。そのような関連は、総テストステロン・遊離テストステロン・エストロン・エストラジオール・総テストステロン/エストロン割合・総テストステロン/エストラジオール割合においては見られなかった。

 PAD発症件数が男性21件、女性24件と低過ぎたため、発症分析は実施できなかった。女性におけるABIの意味ある変化も、閉経前6件、閉経後ホルモン補充療法あり24件、閉経後ホルモン補充療法なし43件と、数が少な過ぎたため回帰モデル分析は実施できなかった。

●考察

 本研究は、男性と女性によって構成される大規模集団標本データの分析により、性ホルモン濃度とABI・PAD・ABI変化との関連を初めて横断的および縦断的に調査したものである。男性においては、横断的分析により、ABIと遊離テストステロンの正方向の関連および、ABIとエストロンとの負方向の関連が明らかになった。縦断的分析においても、男性においては、SHBGとABI変化における関連が示された。

 結論として、中年の地域密着型標本においての本研究から、より低い遊離テストステロン濃度およびより高いエストロン濃度は、男性におけるPADおよびABI変化と関連があるかもしれないが、女性において性ホルモンはPADやABIとの関連が見られなかったことを示している。これらの研究結果を確認し、性ホルモンとPADとの関連における性別関連差異に対する生物学的基礎を明らかにするために、さらなる研究が求められる。

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