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肥満の少年少女は、30代には超肥満になり危険

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 米国でハイスクールとミドルスクールの生徒を標本抽出して13年間追跡調査したところ、肥満の少年少女は高い確率で30代前半までに超肥満になると分かりました。

Association of Adolescent Obesity With Risk of Severe Obesity in Adulthood
Natalie S. The, PhD, Chirayath Suchindran, PhD, Kari E. North, PhD, Barry M. Popkin, PhD, Penny Gordon-Larsen, PhD
JAMA. 2010;304(18):2042-2047. doi:10.1001/jama.2010.1635.

川口利の論文抄訳

発行人の実兄。上智大学文学部卒。千葉県立高校の英語教師在任中に半年間の英国留学を経験。早期退職後に青年海外協力隊員となって、ホンジュラスで勤務、同じく調整員としてパナマで勤務。

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●背景
 超肥満体(BMI40以上)の人は、糖尿病・高血圧・高脂血症・喘息・関節炎など深刻で潜在的に生命を脅かすような合併症に遭うことになる。度重なる横断的な自己申告データによると、過去数十年、超肥満傾向は実質的に増加し続けており、もしかすると中程度の肥満よりも速く増加しているかもしれない。2000年には、米国の成人の2.2%、480万人が超肥満と推定され、特に女性と少数人種・民族においてより高い傾向があった。しかしながら、肥満から超肥満への進行過程を理解するために時間の経過とともに追跡した研究はほとんど存在しない。

 食事、運動、行動変容が超肥満に対する最初の治療として勧められ、薬物療法と合わせれば、短期間で5%~10%の体重減に結びつくかもしれない。しかしながら、抗肥満薬品は本質的に副作用があり、使用を中止するとしばしば体重増加につながる。対照的に、肥満手術は少なくとも10年間は60%~70%の体重減に結び付き、一般に完全な解決策となるか手術後の余病改善につながる。肥満手術が長期間の成功をもたらすために示されてきた唯一の治療であるが、漏出・肺炎・肺塞栓症・バンドの逸脱・バンドの侵蝕など潜在的な合併症を引き起こす。成功へとつながる治療法選択の不足、治療に関連するリスク、超肥満による数々の健康への影響を考えると、1次予防が重要となるのである。

 肥満の人が超肥満へと進行しないように防ぐため、いつ介入が必要となるかを決定するためには、どの人が超肥満になるリスクを抱えているのかを理解することが非常に重要である。これまで、若い時に肥満である人が成人してから超肥満になるリスクを測定する縦断的研究はなされてきていなかった。この目的達成に向け、少年少女時代に肥満だった人が成人して超肥満になる率とリスクを探るため縦断的コホートを米国の国民を代表する標本として研究した。

●方法

(1)
 National Longitudinal Study of Adolescent Health (Add Health)(*1)というコホート研究により、ベースライン時に11~20歳(平均年齢15.9歳)、7~12年生の20,745人が対象となり、第1ウェーブが1994~1995年に開始され、成人になるまでの追跡調査を行った。第1ウェーブの対象者で1996年にまだ学校に通っている者、またはハイスクールに通っていたが中退した者14,738人(12~21歳、平均年齢16.5歳)を対象に、第2ウェーブが実施された。第2ウェーブに参加したかどうかは問わず、第1ウェーブの対象者だった全員15,197人(18~27歳、平均年齢22.3歳)を対象に、第3ウェーブが2001~2002年に実施され、第2ウェーブまたは第3ウェーブへの参加有無は問わず、第1ウェーブ参加者対象に第4ウェーブが2007~2009年に実施された。途中で死亡した、第3ウェーブで標本抽出されなかった、国外へ出た者などを除いた中で、第4ウェーブ参加に同意したのは15,701人(23~32歳、平均年齢28.9歳)となった。調査は面接によって実施された。

(2)測定
 体重と身長は、第2~第4ウェーブまで自宅で標準的方法により計測された。第1ウェーブでは自己申告によるデータを用いたため、このデータは除外した。BMIは、キログラム体重÷メートル身長の二乗で算出された。米国疾病対策センター(CDC)の国立健康統計センター(NCHS)の成長曲線を用いて、測定された身長と体重から年齢・性別に対応するBMI百分位数(*2)を引き出した。少年少女と成人とで相互比較性を持たせるため、次のように分類した。
1 20歳未満の標準体重 年齢成長曲線のBMIが第5百分位数以上から第85百分位数未満、またはBMI18.5以上25未満
2 20歳以上の標準体重 BMI18.5以上25未満
3 20歳未満の体重超過 年齢成長曲線のBMIが第85百分位数以上から第95百分位数未満、またはBMI25以上30未満
4 20歳以上の体重超過 BMI25以上30未満
5 20歳未満の肥満   年齢成長曲線のBMIが第95百分位数以上から第95百分位数の120%未満、またはBMI30以上40未満
6 20歳以上の肥満   BMI30以上40未満
7 20歳未満の超肥満  年齢成長曲線のBMIが第95百分位数の120%以上、またはBMI40以上
8 20歳以上の超肥満  BMI40以上

 体重計の計測範囲を超えた場合(第3ウェーブでは148.5kg、第4ウェーブでは198kg)、超肥満とした。成人の超肥満については、少年少女時(ウェーブ2)では超肥満ではなく、成人時(ウェーブ3または4)では超肥満となった者を分類した。

 年齢は検査日の年齢、超肥満の開始年齢は最初に超肥満と分類されたウェーブでの年齢とした。超肥満開始年齢と青年期における超肥満発現との非線形関係を観察するため、著肥満開始年齢を以下のように分類した。
1 20歳未満(比較基準)
2 20~24.9歳
3 25~29.9歳
4 30歳以上

 人種と民族については、非ヒスパニック系白人、非ヒスパニック系黒人、ヒスパニック(キューバ系、プエルト・リコ系、中南米系、メキシコ系、他のヒスパニック系)、アジア系(中国系、フィリピン系、他のアジア系)に分類した。

(3)統計分析
 少年少女期から成人期への移行期間での超肥満発生率を性別、人種・民族、少年少女期の体重状況(標準体重・体重超過・肥満)により算出した。

 少年少女期の肥満と成人期の超肥満の関係分析のために、標準体重と体重超過を肥満ではないとしてまとめ、肥満と比較した。

●結果

 ウェーブ2の参加者でウェーブ3または4に参加し、少なくとも2回の身長・体重データがある8,834人を分析した。

 13年にわたる少年少女時代と成人時代の間で、成人における超肥満が703件観察され、全体の発生率は7.9%(信頼区間95% 7.4%~8.5%)となった。成人して超肥満になった人は、超肥満ではない人と比較して、少年少女時代のBMI値がより高く、より年齢が高く、少数人種・民族の傾向があった。

 少年少女時代に肥満であった人のうち相当の割合が30歳代前半までに超肥満になったが、性別により大きく異なるものであり、男性では37.1%(信頼区間95% 30.6%~43.6%)であったのに対し、女性では51.3%(信頼区間95% 44.8%~57.8%)であった。

 また、ウェーブ2(少年少女時代)において既に超肥満だった者79名は最終対象者からは外されたが、このうち60人は成人してからも超肥満のままであり、その割合は70.5%(信頼区間95% 57.2%~83.9%)であった。

 少年少女時代に標準体重ないしは体重超過であった人と比較すると、肥満であった人は超肥満へと進みやすく、ハザード比は16.0(信頼区間95% 12.4~20.5)となった。

●考察

 本研究は国民を代表する縦断的データによる推定を実施し、125,000人が少年少女時代に超肥満となり、さらに100万人の少年少女が30歳代初期までに超肥満となるかもしれないことを示している。13年間の研究期間において、超肥満に至らなかった人たちは平均5.1のBMI値上昇であったが、超肥満に至ってしまった人は平均14.2BMI値が上昇した。さらに、少年少女時代に肥満であった人が、標準体重や体重超過であった人と比較して、成人してから超肥満に陥るリスクを相当に背負っていることも分かったので、肥満の少年少女たちが大人になって超肥満にならないようにするための介入が行われるべきであろう。

 本研究の成果は以下のことを示している。
1 少年少女時代に超肥満であることと青年期に超肥満であることとには強い持続性がある。
2 少年少女時代から成人時代への移行期間において超肥満が発生する率は比較的高い。
3 少年少女時代に肥満であった人は、成人してからも有意に超肥満になりやすい。

 これらのことは、人生の初期において超肥満に対する1次および2次予防が必要であることを強調するものである。特に、1次予防は、少年少女時代以前に肥満を予防することであり、2次予防として少年少女のうちリスクが高いグループに対して体重超過や肥満の者を含めて識別し治療することである。

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