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体内時計乱れて太る 魚で正常に戻るかも

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※情報は基本的に「ロハス・メディカル」本誌発行時点のものを掲載しております。特に監修者の肩書などは、変わっている可能性があります。

大西睦子

ハーバード大学リサーチフェロー
医学博士。東京女子医科大学卒業。国立がんセンター、東京大学を経て2007年4月からボストンに。

 体内時計を、ご存じですか?

 実は私たちの体の中には時計があって、体温、血圧やホルモンなどのリズムを整えてくれているのです。その体内時計が乱れてくると、不眠、疲労、糖尿病や高血圧などが起こります。

双方向性だった

 体内時計は、脳にあるもの(「主時計」)と、全身の細胞にあるもの(「末梢時計」)の2種類あります。

 哺乳類の「主時計」は、視床下部※1の視交叉上核という部分にあることが分かっています。眼から入った光の情報を視交叉上核にある神経細胞が受け取り、松果体という所へ信号を送ります。松果体からは、「メラトニン」という睡眠を促すホルモンが、朝日を浴びてから約14〜16時間後に分泌されます。だから朝7時に起きると夜の9〜11頃に眠くなってくるのです。

 視交叉上核が破壊されると、規則正しい睡眠リズムが完全になくなります。従来、この「主時計」が、全身の「末梢時計」を整えていると考えられていました。ちょうど、オーケストラの指揮者と奏者の関係みたいですね。

 ところが、ペンシルベニア大学の研究者らによるマウスを使った研究で、脂肪細胞でArntlという「時計遺伝子」※2が欠損すると、末梢時計が乱れるだけでなく、中枢神経にも影響を及ぼすと分かったのです。論文著者の一人であるフィッツジェラルド博士は、「打楽器奏者が指揮者なしでドラムを叩き、その作用が指揮者に影響したようなもの」と説明しています。

食事時間の影響

 この研究者たちは、さらに11月に公表した論文で、食事時間のズレがエネルギーを貯蔵しやすくし、体重増加の原因になることを示しました。この結果は、昼夜が逆転した職場で働く人や睡眠障害の患者さんがなぜ肥満になりやすいか、という疑問に対する一つの答えを導き出しました。食事時間のズレが末梢時計の乱れと呼応している可能性です。

 Arntlは、脂肪細胞で多く発現しています。そこで著者らは、マウスの脂肪細胞からArntlを欠損させて観察しました。すると、Arntl遺伝子欠損マウスは、寝る時間帯に食事の摂取量が増え、同じカロリー摂取でも、規則正しい生活のマウス(比較対照群の野生型マウス)より体重が増加したのです。同じ高脂肪・エネルギー食を与えた場合も、Arntl遺伝子欠損マウスは野生型マウスより体重が増加しました。

 このマウスの行動変化と体重増加は、米国のアルバート・スタンカード博士によって1955年に提唱された「夜食症候群」※3と似ています。

 また、Arntl遺伝子欠損マウスは、野生型マウスに比べて、レプチン※4と中性脂肪の血中濃度が上昇していました。

 脂肪細胞は、食べ過ぎて余分になったエネルギーを中性脂肪として蓄積します。さらにレプチンを分泌して、視床下部経由で脳に働きかけて食欲を抑制してエネルギーを消費させ、過剰なエネルギー蓄積を防ぎます。

 ところが脂肪細胞の末梢時計が壊れると、この視床下部のリズムが乱れ、レプチンの働きも不十分になって、不適切な時間に食事の摂取を好むようになり、最終的には肥満になりやすくなる、と考えることができます。

魚油の驚くべき力

 研究者たちがArntl遺伝子欠損マウスと野生型マウスの脂肪組成を調べたところ、Arntl遺伝子欠損マウスは、飽和脂肪酸のレベルが高く、不飽和脂肪酸のレベルが低くなっていました。不飽和脂肪酸では特にアラキドン酸※5、エイコサペンタエン酸(EPA)※6、ドコサヘキサエン酸(DHA)※7の血中濃度が目立って低くなっていました。興味深いのは、これらが魚の油に多く含まれている脂肪酸という点です。

 多価不飽和脂肪酸は、視床下部の炎症を抑え、レプチンやインスリンなどの情報伝達を改善させると言われています。このため研究者たちは、Arntl遺伝子欠損マウスで、血漿中の多価不飽和脂肪酸の濃度(特に寝るべき時間の濃度)が低いことが、視床下部における多価不飽和脂肪酸の濃度の低さに反映してリズムを乱し、これが食事の時間のズレを引き起こすのでないかと仮説を立てました。

 そして、Arntl遺伝子欠損マウスの食事にEPAとDHAを補ったところ、驚いたことにマウスの正常なエネルギー代謝が回復したのです。

 研究者たちは、脂肪細胞の末梢時計が視床下部と情報をやりとりすることが、食事のタイミングにおいて重要な役割を果たすことを示しました。この短期的な変化は、時間の経過に伴い体重の増加へつながるのです。

 つまり、昼夜が逆転した職場で働く人や睡眠障害の人に典型的に見られる不規則な食生活が、体脂肪に生来備わっている時間を感知するシステムを混乱させ、結果、脂肪が蓄積しやすくなり、肥満につながる、というわけです。そして、EPAとDHAの豊富な食事が、私たちの体内時計の乱れを修復してくれるかもしれないことも分かりました。

 私も夜型の不規則な生活を送りがちなので、ここでリセットしようと思います。魚を食べることも大切ですね!

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