全国の基幹的医療機関に配置されている『ロハス・メディカル』の発行元が、
その経験と人的ネットワークを生かし、科学的根拠のある健康情報を厳選してお届けするサイトです。
情報は大きく8つのカテゴリーに分類され、右上のカテゴリーボタンから、それぞれのページへ移動できます。

内臓脂肪が多いとビタミンD欠乏リスクが上がる

  • このエントリーをはてなブックマークに追加

 Framingham Heart Study第3世代での研究において、ビタミンDと肥満がどのように関係するのかを調査したところ、特に内臓脂肪組織との関連が強く、内臓脂肪組織の多い人はビタミンD欠乏症リスクが上がることが分かりました。

Adiposity, Cardiometabolic Risk, and Vitamin D Status: The Framingham Heart Study
Susan Cheng, Joseph M. Massaro, Caroline S. Fox, Martin G. Larson, Michelle J. Keyes, Elizabeth L. McCabe, Sander J. Robins, Christopher J. O'Donnell, Udo Hoffmann, Paul F. Jacques, Sarah L. Booth, Ramachandran S. Vasan, Myles Wolf, and Thomas J. Wang
Diabetes. 2010 January; 59(1): 242-248.
Published online 2009 October 15. doi: 10.2337/db09-1011

川口利の論文抄訳

発行人の実兄。上智大学文学部卒。千葉県立高校の英語教師在任中に半年間の英国留学を経験。早期退職後に青年海外協力隊員となって、ホンジュラスで勤務、同じく調整員としてパナマで勤務。

●背景

 ビタミンD欠乏症は、血中25ヒドロキシビタミンD(25[OH]D)濃度が20ng/mL未満によって表され、先進国の中年から老年者の半分もが抱えている。筋骨格の健康への影響に加えて、ビタミンD欠乏症の人は、心血管罹患率および死亡率リスクが高まることを示すエビデンスが増加している。このように、一般集団においてビタミンD欠乏症を助長する特徴を理解することは、重要な臨床的意味を有している。

 ビタミンDの主たる源は、日光を浴びた結果としての皮膚における内因性産生である。先行する研究においてビタミンD欠乏症との関連で最も一致を見ている臨床的特徴の一つは、肥満である。肥満とビタミンD欠乏症との関連は間接的である可能性があり、肥満の人は引き締まった人よりも戸外活動が少ないことから生じ、日光を浴びることがより少ないということになる。しかしながら、肥満がビタミンD状況に与える直接的弊害も仮説として立てられてきている。ビタミンDは油溶性なので、隔離され脂肪組織内に蓄えられるかもしれない。したがって、実験的およびヒトにおける研究では、体脂肪におけるより多いビタミンD貯蔵が、内因的に産生されたビタミンDの循環における生物学的利用能を低下させることが示されている。

 ビタミンD欠乏症は、インスリン抵抗性およびメタボリックシンドロームとも関連付けられてきている。先行する研究は、主としてBMIや腹囲など人体測定に依存はしているが、ビタミンD欠乏症とインスリン抵抗性の関連は、すべてが肥満に帰すわけではないことを示している。CT画像が皮下脂肪容量および内臓脂肪容量の信頼できる描写機会を与え、内臓脂肪は、インスリン抵抗性および代謝リスクとより密に結び付けられる脂肪区画である。CT技術を用いることで、選択集団における最近の研究は、ビタミンDが局部肥満における変化と関係あるかもしれないこと示している。

 それ故に、本研究では、ビタミンDと肥満の人体測定学的・生化学的・映像的計測との横断的関係を、大規模地域密着型標本で調査した。最初、ビタミンD貯蔵を最もよく反映する循環形態である25[OH]Dの血清濃度が、身体活動と食事からのビタミンD摂取を考慮した後に肥満測定と関連あるかどうかを評価しようとした。次に、25[OH]D状態が皮下脂肪組織または内臓脂肪組織のどちらとより密接な相関にあるのかを評価した。3番目に、血清25[OH]Dが、肥満を考慮した後にインスリン抵抗性測定と関連あるのかどうかを調べた。

●方法

(1)対象者
 Framingham Heart Studyの第3世代コホートのうち、3,890人が心血管疾患および糖尿病がなく、血清クレアチニン値が1.2mg/dL以下、血清25[OH]D測定を受けた。この標本が、血清25[OH]Dと臨床的・人体測定学的・生化学的肥満測定およびインスリン抵抗性との関係分析に使われた。

 25[OH]D測定と同時に、サブグループとして2,111人が、2002~2005年の間に多検出器CT(MDCT)画像撮影を行った。体重が350ポンド未満、男性35歳以上、女性40歳以上で妊娠していなければ適格者となった。CT走査を受けた対象者中1,882人が、皮下脂肪組織容積および内臓脂肪組織容積測定をされ、心血管疾患および糖尿病がなかった。この標本は、ビタミンD状況と皮下脂肪組織および内臓脂肪組織肥満との関係分析に使われた。

(2)臨床的評価
1 心疾患危険因子を考慮した。
2 身体活動は、様々な活動レベルにおいて毎日どのくらいの時間を費やしたかにより算出し、それぞれの活動に必要とされる推定酸素消費量によって過重値を与え、身体活動指数で表した。
3 補充食品および食事からの総ビタミンD摂取量データは、詳細な食物摂取頻度調査票から入手した。

(3)ラボ分析
 血清サンプルは1晩絶食後の午前中に採取され、-80℃で凍結された。以下の分析を実施した。
1 血清25[OH]D ビタミンD欠乏症は、25[OH]D濃度20ng/mL未満と定義した。
2 血漿インスリンおよびプロインスリン
3 インスリン抵抗性はHOMA-IRで評価 最大四分位群に入った場合は、HOMA-IR値が高いと見なした。

(4)腹部脂肪組織画像および測定
 MDCTにより画像撮影をし、皮下脂肪区画と内臓脂肪区画を分ける腹壁を手作業でたどり、容積評価を実施した。内臓脂肪組織および皮下脂肪組織測定値の高低は、男女別々の健康な標準標本から境界点を90パーセンタイルとし、それより上か下かで定義した。

(5)統計分析
1 トリグリセリド値・ビタミンD摂取量・インスリン値・プロインスリン値はログ変換した。
2 全標本において、25[OH]Dを従属変数として、以下の独立変数との関連を調べた。年齢・性別・喫煙・ログ変換トリグリセリド値・HDL-C・収縮期血圧・高血圧治療・BMI・腹囲・身体活動指数・ログ変換ビタミンD摂取量・空腹時血糖値・ログ変換インスリン値・ログ変換プロインスリン値・HOMA-IR(75パーセンタイル以上)・メタボリックシンドローム。メタボリックシンドロームは、以下の3要素以上が存在することと定義した。
①腹囲が男性で40インチ以上、女性で35インチ以上
②血清トリグリセリド値が150mg/dL以上、または高トリグリセリド血症治療薬使用(フィブラート系またはニコチン酸誘導体)
③HDL-C値が男性で40mg/dL未満、女性で50mg/dL未満、または低HDL-C血症治療薬使用(フィブラート系またはニコチン酸誘導体)
④収縮期血圧130mmHg以上、または拡張期血圧85 mmHg以上、または降圧剤使用
⑤空腹時血糖値100mg/dL以上
それぞれの変数と25[OH]Dとの関連は、最初は年齢・性別・冬季(1月~4月)で補正を加えて調べた。その後、多変量回帰分析を実施した。
3 MDCT走査を受けたサブグループに対して、皮下脂肪組織と内臓脂肪組織との多変量回帰分析をそれぞれ別に、さらに両方を合わせて実施した。
4 皮下脂肪組織と内臓脂肪組織のどちらが25[OH]Dとより強い関連にあるのかを調べた。共変数として、女性のホルモン補充療法・女性の閉経状況・男女ともにアルコール摂取量を追加した。
5 インスリン抵抗性と25[OH]Dとの関連を評価するため、空腹時血糖値・ログ変換インスリン値・HOMA-IR値・ログ変換プロインスリン値をインスリン抵抗性代用値とし、肥満測定値であるBMI・腹囲・皮下脂肪組織・内臓脂肪組織それぞれとの関係を調べた。
6 肥満と体格を別々に調べるため、肥満測定値をBMI分類、25未満・25以上30未満・30以上で分析した。

●結果

(1)対象者特性
 平均年齢は40歳で、54%が女性だった。全体として、22%がBMI30以上で肥満、35%がBMI25以上30未満で体重超過であった。25[OH]Dは、食事からのビタミンD摂取量(P<0.0001)、および身体活動(P<0.0001)と正方向の関係があった。25[OH]Dは、インスリン抵抗性測定値を含め、他の臨床的・代謝性変数とは有意に負の関連にあった。年齢・性別・季節で補正を加えると、メタボリックシンドロームの存在は、より低い25[OH]D濃度と関連があり、-4.5ng/mL、P<0.0001となった。

(2)多変量分析
 より高い25[OH]Dは、冬ではない季節・より小さな腹囲・身体活動増加・より高いビタミンD摂取量との関連があった。これらの変数で補正を加えても、25[OH]Dは血清インスリン値と負の関連にあった(P=0.004)。

 CT測定を実施したサブグループでの多変量分析は、25[OH]Dを局部的肥満に関係づけ、性別・季節・収縮期血圧・身体活動指数・ログ変換ビタミンD摂取量・ログ変換インスリン値で補正を加えた。皮下脂肪組織と内臓脂肪組織を別々にモデルに加えた場合は、25[OH]Dはそれぞれの肥満測定値と負の関連が見られ、皮下脂肪組織も内臓脂肪組織もP<0.0001となった。これらの関係は、皮下脂肪組織と内臓脂肪組織を連続変数として扱っても、高低分類群で扱っても有意となった。さらに、腹囲を補正に加えても、25[OH]Dと内臓脂肪組織の関連は有意なままとなった。皮下脂肪組織と内臓脂肪組織を同時にモデルに加えても、これらの測定値は25[OH]Dと負の関連を保ち続け、皮下脂肪組織の標準偏差1増加ごとの25[OH]Dは-1.1ng/mL(P=0.016)、内臓脂肪組織の標準偏差1増加ごとの25[OH]Dは-2.3ng/mL (P<0.0001)であった。

 25[OH]Dとインスリン抵抗性マーカーである空腹時血糖値・血清インスリン値・HOMA-IR値との多変量補正での関係は、補正にBMIを加えた場合、または腹囲を加えた場合も有意となった。皮下脂肪組織を補正に加えると関係は適度に弱められ、内臓脂肪組織を補正に加えた場合は有意性が見られなくなった。また、25[OH]Dと血清プロインスリン値の関連は、肥満測定値での補正では見られなかった。

 BMI群での分類で25[OH]Dと局部的肥満との関連を調べると、内臓脂肪組織の方が皮下脂肪組織よりも一貫した関連が見られ、皮下脂肪組織が体重超過群と肥満群でのみ有意であったのに対し、内臓脂肪組織はすべてのBMI群で有意となった。

(3)ビタミンD欠乏症傾向
 全体として、ビタミンD欠乏症(20ng/mL)は、高皮下脂肪組織群の方が低皮下脂肪組織群より多く、13.7%対6.7%、P<0.0001となった。また、高内臓脂肪組織群の方が低内臓脂肪組織群より多く、15.4%対5.7%、P<0.0001となった。ビタミンD欠乏症は、内臓脂肪組織の三分位が上がるほどに高くなっており、標準体重者も含まれていた。皮下脂肪組織と内臓脂肪組織の両方が高いと、どちらも低い群と比較して約3倍ビタミンD欠乏症傾向となり、15.8%対5.1%、P<0.001となった。

●考察

 本研究からの主たる結果は3点ある。
1 BMIがより大きいほどビタミンD濃度がより低いとの関係が観察され、これは、身体活動やビタミンD摂取量における変化では説明されない。
2 標準体重の人であっても、25[OH]Dと皮下脂肪組織、特に内臓脂肪組織との負の関連が見られ、体格以上に、ビタミンD状態との相関としての脂肪組織の重要性を強調するものである。
3 25[OH]Dと一般的に使われているインスリン抵抗性マーカーとの関連は、特に内臓脂肪組織を考慮に入れた場合に顕著に弱められた。

 本研究では、より低い25[OH]Dはより大きな局部的肥満と関連あることが分かり、これは身体活動やビタミンD摂取量の違いによるものではない。25[OH]Dと肥満との関連は、皮下脂肪組織よりも内臓脂肪組織の方でより強く、体格の大小全体にわたり有意であった。実際、25[OH]Dと肥満との関連は、健康で標準体重の人にも見られ、その他の点ではビタミンD欠乏症リスクを抱えているとは考えられないかもしれない。さらに、インスリン抵抗性マーカーと25[OH]Dとの関係は、内臓脂肪組織での補正により顕著に弱められたのであり、内臓脂肪超過がビタミンDとインスリン抵抗性およびメタボリックシンドロームとの関係の原因になり得ることを示している。

↓↓↓当サイトを広く知っていただくため、ブログランキングに参加しました。応援クリックよろしくお願いします。


1 |  2 
  • 患者と医療従事者の自律をサポートする医療と健康の院内情報誌 ロハス・メディカル
月別アーカイブ
サイト内検索