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肥満は心房細動リスクを高める

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BMIの増加と心房細動発症リスクとの関連を調査したところ、特に肥満の人は正常体重の人の1.5倍リスクが高いと分かりました。

Obesity and the Risk of New-Onset Atrial Fibrillation
Thomas J. Wang, MD, Helen Parise, ScD, Daniel Levy, MD, Ralph B. D'Agostino, PhD, Philip A. Wolf, MD, Ramachandran S. Vasan, MD, Emelia J. Benjamin, MD, ScM
JAMA. 2004;292(20):2471-2477. doi:10.1001/jama.292.20.2471
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川口利の論文抄訳

発行人の実兄。上智大学文学部卒。千葉県立高校の英語教師在任中に半年間の英国留学を経験。早期退職後に青年海外協力隊員となって、ホンジュラスで勤務、同じく調整員としてパナマで勤務。

●背景

不整脈の最も一般的症状である心房細動(atrial fibrillation:AF)の有病率は今後数十年で数倍に増えると予想されている。現代の療法にもかかわらず、AFは、その後の罹患率や死亡率と関連があり、AFの潜在的に変更可能な危険因子を識別することは重要な目標である。先の研究は、高齢・糖尿病・高血圧・心臓血管疾患がAFの発症リスクを高めることを示してきている。これらの健康状態のほとんどと関連して肥満が起こるが、肥満そのものがAFの素因となるのかどうかは不明確である。そのような関連を仮説として立てることの理論的根拠は、実験的・臨床的データが脂肪症は心房心室組織・自律状態・心室拡張機能に影響を与えることを示しているからである。先の疫学的研究は、肥満がAFの危険因子かどうかについて相反する結果を生み出しているが、これらの研究は、短期間の追跡調査、AF発症までの中間における心臓血管疾患を考慮していないこと、心エコーデータの不足によって潜在的に限界があった。

 Framingham Heart Studyにおける長期追跡調査の可能性が、肥満とAF発症リスクとの関連を検証する機会を提供した。研究の対象者には心エコーが定期的に実施されていたので、左心房組織への影響を通して肥満がAFの素因となるという仮説の検証も可能となった。

●方法

(1)対象者
 Framingham Heart Study(*1)およびFramingham Offspring Study(*1)コホートの対象者から、1979~1982年に実施されたFramingham Heart Study16回目の検査参加者2,351人と、1979~1983年に実施されたFramingham Offspring Study2回目の検査参加者3,867人を本研究に対する適格者とした。これらの検査選択理由は、定期的心エコーが含まれており、それ以前の検査よりも同時的体験を反映しながらでの長期的追跡調査提供となっていたことによった。35歳未満701人、AF既往症または現症状あり127人、標準体重未満(BMI18.5未満)108人を除外した。悪液質である者が含まれてしまう可能性を減ずるために標準体重未満を排除した。最終的に5,282人(うち女性が55%の2,898人)が適格者として残った。

(2)臨床評価および定義
1 既往歴確認、身体検査、心エコーがFramingham Heart Studyの各検査時に実施された。
2 身長、体重は直接計測し、BMIはキログラム体重÷メートル身長の二乗により算出した。
3 収縮期血圧140mg以上で拡張期血圧90mg以上、または降圧治療を受けている場合を高血圧と定義した。
4 空腹時血糖値120mg/dl.以上、ランダム血糖値200mg/ dl.以上、インスリン使用、高血糖症治療薬使用の場合を糖尿病と定義した。
5 再分極異常を伴う電位増加を心エコー診断左心室肥大と定義した。
6 ベースライン時検査では、スタンダードなMモード心エコーも実施された。収縮終期での左心房直径をアメリカ心エコー図学会のガイドラインに基づき計測した。
7 追跡調査期間中の心臓血管疾患関連すべての入院と医師診察が3名の専門家によって検討され、病院や医師のカルテ、またはFramingham Heart Studyでは2年に一度Framingham Offspring Studyでは4年に一度行われた定期的Framingham検査の一つからでも、心エコーに心房細動ないしは心房粗動が認められた場合は心房細動との診断を下した。

(3)統計分析
 BMI分類は世界保健機関および米国国立衛生研究所の分類に従い次のようにし、BMIあるいはBMI分類とAFとの関連を調べた。死亡は調査打ち切り、追跡調査は16年後に終了し、最終対象者は1999年10月での打ち切りとなった。
1 標準体重 BMI25.0未満
2 体重超過 BMI25.0以上30.0未満
3 肥満    BMI30.0以上

 また、肥満がベースライン時検査後AF発症までの間における心筋梗塞や心不全を通じてAFの素因となるのかも調べた。BMI30以上から35未満を肥満第1ステージ、35以上を第2・第3ステージとしての肥満度別影響、あるいはBMI30以上の肥満対象者を除いて肥満ではない対象者にもAFとBMIの関連が存在するのかどうか、35歳未満の人やBMI18.5未満の標準体重未満者を含めたらどのようになるのか、なども分析した。

 肥満とAFの関連は肥満が左心房組織に与える影響によって左右されるかもしれないとの仮説を立て、まだ誰もAFを発症していなかったベースライン時検査における心エコーで測定した左心房の大きさで補正したモデルも用意して検証した。

●結果

(1)研究標本
 ベースライン時の男性平均年齢は56歳(35歳から90歳まで)、女性平均年齢は58歳(35歳から90歳まで)で、男性2,384人中51%にあたる1,216人が体重超過、17%にあたる413人が肥満、女性2,898人中31%にあたる898人が体重超過、16%にあたる464人が肥満であった。

(2)AFの発症
 平均13.7年の追跡調査期間中、男性292人、女性234人がAFを発症した。先立って、男性43人女性22人が心筋梗塞を、男性36人女性29人がうっ血性心不全を起こした。追跡調査期間中に1,452人(女性715人)が亡くなり、そのうち1,168人(女性572人)はAFを発症しなかった。年齢補正を加えたAF発生率は、男性女性ともBMI分類に従って増加した。また、BMI分類に従って、加齢とともにAF発生可能性が高まることも判った。
1 男性標準体重 9.7件/1,000人年
2 男性体重超過 10.7件/1,000人年
3 男性肥満   14.3件/1,000人年
4 女性標準体重 5.1件/1,000人年
5 女性体重超過 8.6件/1,000人年
6 女性肥満   9.9件/1,000人年

(3)多変量分析
 年齢のみで補正を加えると、BMI単位が1増えるごとに男性でAFリスクが5%(P=0.002)、女性で4%(P=0.001)上がることと関連性があった。多変量補正後もこの傾向は変わらず、男女ともに4%AFリスクが上がった。BMI分類に従ってのAF増加ハザード比は、標準体重群との比較において、肥満男性は1.49(信頼区間 95% 1.06~2.09)、肥満女性は1.45(信頼区間 95% 1.03~2.05)となった。中間期での心筋梗塞やうっ血性心不全による補正を加えたモデルにおいても、男女ともBMI単位が1増えるごとにAFリスクが4%高まった。肥満男性のハザード比は1.52(信頼区間 95% 1.09~2.13)、肥満女性のハザード比は1.46(信頼区間 95% 1.03~2.07)であった。

 肥満度の違いによる影響評価のため標準体重、体重超過、肥満第1ステージ、肥満第2・3ステージの4分類で見ると年齢補正ハザード比は以下のようになった。
1 男性標準体重   1.00
2 男性体重超過   1.12(信頼区間 95% 0.85~1.48)P=0.001
3 男性肥満第1   1.61(信頼区間 95% 1.14~2.27)P=0.001
4 男性肥満第2・3  2.30(信頼区間 95% 1.22~4.33)P=0.001
5 女性標準体重   1.00
6 女性体重超過   1.20(信頼区間 95% 0.90~1.61)P=0.005
7 女性肥満第1   1.46(信頼区間 95% 1.00~2.15)P=0.005
8 女性肥満第2・3  1.93(信頼区間 95% 1.15~3.25)P=0.005
医療的変数、中間期心筋梗塞・心不全で補正後も有意性は変わらなかった。

 BMI30未満の肥満ではない人のみにおいても、BMIとAFリスクには有意な関係があり、BMI1単位増加ごとのハザード比は1.06(信頼区間 95% 1.02~1.10 P=0.002)となった。

(4)心エコー分析
 肥満とAFの関連は肥満が左心房組織に与える影響によって左右されるかもしれないとの仮説を立てたので、心エコー左心房直径による補正分析を行った。平均直径は肥満群が体重超過群や標準体重群より大きく、平均直径は以下のようになった。
1 男性肥満   4.4cm
2 男性体重超過 4.1cm
3 男性標準体重 3.8cm
4 女性肥満   4.0cm
5 女性体重超過 3.8cm
6 女性標準体重 3.5cm

 左心房直径での補正を加えると、BMIのAFリスクが著しく弱まり、統計的に有意ではなくなり、男性におけるBMI1単位増加ごとのハザード比が1.00(信頼区間 95% 0.97~1.04 P=0.84)、女性では0.99(信頼区間 95% 0.96~1.02 P=0.56)となった。BMI分類群で比較しても、有意性はなくなることが判った。このことから、左心房直径はAF発症と強い関連性があり、直径が1mm増大するごとのハザード比は、男性で1.06(信頼区間 95% 1.04~1.09 P<0.001)、女性で1.10(信頼区間 95% 1.07~1.13 P<0.001)
になった。

●考察

 本研究は、標本規模が大きいこと、長期にわたる追跡調査をしたこと、様々な交絡因子による補正を加えても男女ともに傾向が一貫していたことから、結果に妥当性があるものとなっている。さらに、左心房拡張というAFにとって重要なる中間表現型と肥満とが関連あることから、生物学的妥当性もあると言える。肥満がAFリスクを50%高めると分かったが、高血圧や糖尿病がAFの素因となり、また肥満の余病でもある中でそれらによる補正を加えているので、肥満がAFリスクに与える影響を過小評価している可能性もある。肥満傾向を少し抑えるだけで、AF発症を大きく減少させることにつながるのである。

 体重超過群について、統計的検出力上は男性の40%から女性の69%までの範囲でハザード比が存在すると考えられたこと、BMI30以上の肥満群を除いての分析においても、BMIはAFリスクと有意な関係を維持し続けたことから、AFリスクが高まるのは肥満の人に限らないということになる。AFの管理は難しい医学的課題となったままであり、潜在的に変更可能な危険因子を識別することは重要な公衆衛生上の意味を有することになる。本研究は観察的なものではあったが、体重を減らすことがAFリスクを下げるだろうという興味深い可能性を高めたことになる。

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