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特定秘密保護法は医の倫理と正面衝突

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※情報は基本的に「ロハス・メディカル」本誌発行時点のものを掲載しております。特に監修者の肩書などは、変わっている可能性があります。


まさに悪法問題

 問題はこれだけに留まりません。万が一、医療機関への回答義務づけが合法だとしても、医師や医療機関には、別に考えなければならないことがあります。

 以前、ロハスメディカル叢書05『医師が「患者の人権を尊重する」のは時代遅れで世界の非常識』(平岡諦著)のエッセンスとして、世界標準の医療倫理をご紹介したことがあります。

 医師が最優先すべきは患者の人権であって法の要請ではない、法が患者の人権を脅かす恐れのある時は従ってはいけないというものです(悪法問題)。つまり、今回の場合も本人の同意がない限り、医師は照会に応じてはいけないということになります。

 ちなみに個人の自由を制限できるのは、別の個人の自由と衝突した場合だけだというのが、近代以後の世界的合意です。ですから、そもそも国民主権の国で法が市民の人権を脅かすような事態は想定されづらいのですが、全体主義的な国では、国家を市民より上位に置くため、法が市民の人権を脅かす事態が起こってきます。

 小松氏は前出メールマガジンの中で「第二次大戦後、医療倫理についてさまざまな議論が積み重ねられ、医療における正しさを、国家が決めるべきでないという合意が世界に広まりました。国家に脅迫されても患者を害するなというのが、ニュルンベルグ綱領やジュネーブ宣言の命ずるところです。これは行政上の常識にもなっているはずです。ナチス・ドイツでは、国の暴走に医師が加わることで、犠牲者数が膨大になりました。医療における正しさの判断を、国ではなく、個々の医師に委ねなければ、悲劇の再発は防げません。これは日本の医師の間でも広く認識されています。(中略)ジュネーブ宣言は、世界医師会の医の倫理に関する規定です。臨床試験についての規範を定めたヘルシンキ宣言などとともに、日本を含む多くの国で、実質的に国内法の上位規範として機能しています。ジュネーブ宣言は、医師に徹底して患者の側に立つことを求めます」と書いています。

日医はどうする?

 ここまで大仰なことを書かずとも、イザとなったら秘密を明かされてしまうかもしれない医師に対して患者がどこまで心を開けるのか、信頼関係が成立するのかということだけ考えても、医師が本人の同意なしに照会に答えるのは、現代医療の前提を根底から引っくり返すことになると、ご理解いただけることでしょう。

 実際、国会で医療機関に照会への回答義務があるとの政府見解が示された直後には、医師たちの間でかなり話題になり、「そんなバカな」という反応が多くを占めました。

 ただし、ではイザという時は医師が防波堤になって回答を拒否してくれるのだな、と安心するのは早いです。医師たちも、法施行後にどういうことが起きるのか、まだよく分かっていないからです。

 現実問題として、医師の側も、個人で責任を取らなければいけないとなると、「義務だ」とされているものを拒否するのには相当の勇気が要ります。拒み切れず回答してしまう医師も出てくることでしょう。そして1人でも回答する医師が出てくれば、患者の側は、目の前の医師が絶対にそうではないと信じることができにくくなります。信頼関係の崩壊です。

 信頼関係を壊すことのないよう、医師が防波堤の役割を果たすには、医師団体が何らかの見解を出し、その見解に対して全医師に従うよう明言する必要があるでしょう。

 しかし残念なことに、これも『医師が「患者の人権~』の主要テーマでしたが、我が国最大の医師団体である日本医師会(日医)が、世界標準の医療倫理に沿って行動するつもりがあるのか、今ひとつハッキリしないのです。この表現は日医に甘過ぎるかもしれず、戦時中に中国で人体実験を行った(人権侵害した)ことが明らかになっている731部隊に関する総括と責任追及をしないうちは、世界標準に沿って行動するつもりがないとみなされても仕方ない、というのが著者の見解でした。

 法施行まで1年を切っています。日医をはじめとする医師の団体には、この問題に対して早く見解を明らかにし、患者と医療従事者との間の信頼関係が損なわれることのないような行動を求めたいところです。

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