全国の基幹的医療機関に配置されている『ロハス・メディカル』の発行元が、
その経験と人的ネットワークを生かし、科学的根拠のある健康情報を厳選してお届けするサイトです。
情報は大きく8つのカテゴリーに分類され、右上のカテゴリーボタンから、それぞれのページへ移動できます。

アルツハイマーを通して人間の本質が見える

  • このエントリーをはてなブックマークに追加

鈴木 今データの話がありましたけれども、医療イノベーション室の特徴の一つとして、日本を代表する世界的医学者、理系の研究者の協力をいただいたのは大変ありがたいことだったんですけれども、日本の法律、憲法、刑法、民法ありとあらゆる分野の若手のエース中のエースの方に集まっていただいて、リーガルのワーキンググループを作っています。まさに様々な個人データ、バイオバンク、ゲノムなどで個別化医療の取り組みをやっています。アルツハイマーは高齢期における個別医療というお話もありましたが、色々なデータを治療のために使うのはよいわけですけれども、我々のやりたいのは、治療に使うためのデータベースというものを作っていく、最終的には治療に貢献するけれども、翻訳機のようなものが個別化医療に必要になってくる。

 そういう時に従来の個人情報管理の枠組みとコンセプトでいきますと、なかなかそのデータの成果を国民の皆さんへお返しするというのが非常に難しい。しかし一方で個人データですから、これは大変にプライバシーは重要で、このまさに究極のトレードオフというかジレンマの中で、若手のリーガルチームを作らせていただいてですね、この財産をですね、どういう風に日本および世界のために還元していくのか、リーガルのエンジニアリングとITのエンジニアリングを駆使して検討していただいています。こういう課題を前にしてみますと、日本というのは、ものすごい知恵を持った人がいっぱいいて、こういう非常な難問を前にそういう先生方が持っている知恵を振り絞って、少しずつ違った分野の方のコラボレーションが少しずつ始まっている。

 それから、私、教育も担当しているわけですけれども、再生は発生ということですよね。まさに発達というのは、赤ちゃんで生まれて、そこから色々な刺激の中でどういう発達をするのか、特に認知機能あるいは知的機能や知的コミュニケーション能力をどう作っていくのかというのが、教育のメインストリームなわけで、アルツハイマー研究の成果というのは、教育学とか発達学のド真ん中と実は同じことをやっておられるわけだなあということに改めて気づきました。

 本来はそういう所も含めて、人間がモノを覚え、モノを考え、人とそれをどういうコミュニケートしながら。人間の人間たるゆえんというのは、ブレインをコネクトできるということですよね。というような話になってくると、実は教育の世界では個別学習と協働学習、コラボレーティブラーニングの二つがキーワードで、学びのイノベーションというプロジェクトを立ち上げていますけれども、大きな可能性が開けている、しかし一方でプライバシーの問題がある、これは究極の問題です。

 それから、先ほども出ましたように、がんでも同じ話ですけれども、感染症のように感染してキレイに治っていくという病気観、それがまさに20世紀、後藤新平をはじめ、日本の医療政策というのは、そういう公衆衛生管理であり、そのための治療体制、これも引き続きパンデミックなどの危険性がある中で当然我々は備えておかなければいけないわけですけれども、そうではなくて最後は亡くなっていく人間の、病というのは、ある種老化ということです。その進行遅延というのをどうしていくか。色々な人間のファンクションが衰えていく、そこに対して退行を遅らせるというアプローチになった時に、医療観とか医療倫理とか、先ほどのデータの話も医療倫理の話ですけれども、極めて思想的哲学的な課題。まさに人間とは何であるか、あるいは社会とは何であるかというような、かなり深淵なテーマがここに盛り込まれている、アルツハイマー研究のまさに無限の奥深さを改めて感じました。

 最後に、最先端のアルツハイマープロジェクトのリーダーとして、言い残されたことがありましたら。

岩坪 大方のことはすでに話させていただきましたけれども、アルツハイマー病は、人間の脳の究極の老化像です。病気ではあるとしても、老化の過程なわけですから、それを完全に止めるというのは、脳の不老長寿を実現するにも似た大変なことであるのは想像に難くないわけです。しかし私も過去25年ほどアルツハイマー病とその周辺を勉強して参りましたけれども、その間の進歩、そして製薬企業や社会全体によるアルツハイマー病への本格的な取り組みは、25年前には全く予測できなかった高いレベルに来ています。現時点では、解決をはばむ硬い壁を穿ちながらも、まだ突破口は開いてない状況かもしれませんが、5年かかるか10年かかるか、あるいはすぐに明かりが差し込むか分かりませんけれども、社会全体に支えられたアルツハイマーを解決しようとする努力は、必ず何らかの形で結実してくると思います。

 先生がはじめにおっしゃったように、我々は高齢化社会の中を生きていかなければならない、この社会を支え維持するためにも、アルツハイマー病をはじめとする認知症の問題に、科学の立場から、また社会におけるあらゆる取り組みを踏まえて、先生方とも手を携えて前へ進むために全力を尽くしたい、そういう思いでいっぱいです。

 1  | 2 |  3 
  • 患者と医療従事者の自律をサポートする医療と健康の院内情報誌 ロハス・メディカル
月別アーカイブ
サイト内検索