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脳脊髄液バイオマーカーの有効性

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 ヨーロッパおよび米国の12のセンターで、脳脊髄液(CSF)中のベータアミロイド1-42(Aβ42)・総タウ蛋白(T-tau)・リン酸化タウ(P-tau)の値が、軽度認知障害患者における初期アルツハイマー病予測にどの程度役立つのかを、アルツハイマー病患者・軽度認知障害患者・健康な対照群における比較試験として実施したところ、かなりの感度で予測することが分かったと同時に、分析技術や臨床診断法の標準化が必要だとも結論づけています。


CSF Biomarkers and Incipient Alzheimer Disease in Patients With Mild Cognitive Impairment
Niklas Mattsson, MD; Henrik Zetterberg, MD, PhD; Oskar Hansson, MD, PhD; Niels Andreasen, MD, PhD; Lucilla Parnetti, MD, PhD; Michael Jonsson, MD; Sanna-Kaisa Herukka, PhD; Wiesje M. van der Flier, PhD; Marinus A. Blankenstein, PhD; Michael Ewers, PhD; Kenneth Rich, MD; Elmar Kaiser, MD; Marcel Verbeek, PhD; Magda Tsolaki, MD, PhD; Ezra Mulugeta, PhD; Erik Rosén, PhD; Dag Aarsland, MD, PhD; Pieter Jelle Visser, MD, PhD; Johannes Schröder, MD, PhD; Jan Marcusson, MD, PhD; Mony de Leon, MD, PhD; Harald Hampel, MD, PhD; Philip Scheltens, MD, PhD; Tuula Pirttilä, MD, PhD; Anders Wallin, MD, PhD; Maria Eriksdotter Jönhagen, MD; Lennart Minthon, MD, PhD; Bengt Winblad, MD, PhD; Kaj Blennow, MD, PhD
JAMA. 2009;302(4):385-393. doi:10.1001/jama.2009.1064.

川口利の論文抄訳

発行人の実兄。上智大学文学部卒。千葉県立高校の英語教師在任中に半年間の英国留学を経験。早期退職後に青年海外協力隊員となって、ホンジュラスで勤務、同じく調整員としてパナマで勤務。

 小さな単独センター型での複数の研究が、脳脊髄液(CSF)バイオマーカーは、軽度認知障害患者の中における初期アルツハイマー病を識別するのに役立つかもしれないことを示してきているが、大規模多センター型研究は実施されてきていない。

 本研究は、CSFのベータアミロイド1-42(Aβ42)、総タウ蛋白(T-tau)、トレオニン(スレオニン)181リン酸化部位でのリン酸化タウ(P-tau)の、軽度認知障害患者における初期アルツハイマー病の予測に対する診断精度を決定することが目的である。

 研究は2部構成となっており、境界点識別のためのアルツハイマー病患者と対照群を含む横断的研究と、その後1990~2007年に実施された軽度認知障害患者での前向きコホート研究の組み合わせになっている。合計で750人の軽度認知障害者、529人のアルツハイマー病患者、304人の対照群が、ヨーロッパおよび米国の12センターから採用された。軽度認知障害者は、最低2年間、または症状が臨床的認知症へと進行するまで追跡調査された。

 初期アルツハイマー病識別に対する、CSFのAβ42・T-tau・P-tauの感度・特異度・陽性尤度比・陰性尤度比をアウトカムとした。

 追跡調査期間中に、271人の軽度認知障害者がアルツハイマー病、59人が他の認知症と診断された。特に、Aβ42分析評価は、センター間でかなりの変動性を有していた。アルツハイマー病を発現した患者は、追跡調査期間中にアルツハイマー病を発現しなかった患者との比較において、より低いAβ42中央値でより高いP-tau 中央値とT-tau中央値となりP<0.001、Aβ42は非発現群579ng/L(幅121~1,420)に対して発現群356ng/L(幅96~1,075)、P-tauは非発現群53ng/L(幅15~163)に対して発現群81ng/L(幅15~183)、T-tauは非発現群294ng/L(幅31~2,483)に対して発現群582ng/L(幅83~2,174)となった。受信者動作特性曲線(ROC曲線)下面積は、Aβ42に対しては0.78(信頼区間95% 0.75~0.82)、P-tauに対しては0.76(信頼区間95% 0.72~0.80)、T-tauに対しては0.79(信頼区間95% 0.76~0.83)となった。感度85%に設定された境界点は、アルツハイマー病群および対照群において定義され、軽度認知障害群で検証された。Aβ42のP-tauに対する(Aβ42/P-tau)比率とT-tauの組み合わせが、感度83%(信頼区間95% 78~88%)・特異度72%(信頼区間95% 68~76%)・陽性尤度比3.0(信頼区間95% 2.5~3.4)・陰性尤度比0.24(信頼区間95% 0.21~0.28)で初期アルツハイマー病を識別した。陽性的中率は62%、陰性的中率は88%となった。

 多センター型本研究は、CSFのAβ42・T-tau・P-tauが、十分な精度で初期アルツハイマー病を識別するものの、単独センター型研究から報告されているよりは精度が下がることを見出した。サイト内分析評価の変動性は、分析技術と臨床診断法の標準化に対する必要性を強調するものである。

●背景

 アルツハイマー病は、認知症の最も多い原因であり、全世界的に1千5百万人を超える人々に影響を与えている。アルツハイマー病で病的に顕著なのは、タウ蛋白から成る神経細胞内での神経原線維濃縮体と、原線維構造内おけるシナプス毒性ベータアミロイド(Aβ)ペプチドの細胞外沈着である。神経細胞の変化は、認知症のない老齢者においても存在し、その発現は、臨床的症状に数年先立つと考えられている。

 γおよびβセクレターゼ阻害剤ないしはワクチンでのアルツハイマー病の疾患修飾性治療が開発される可能性が、早期診断を可能にする方法の必要性を高めている。治療は、神経変性進行が重度になり過ぎる前に、疾病進行の極めて早期に開始される必要があるだろう。それ故に、焦点の多くは、年齢補正での標準を超えるが認知症基準を満たすほど重度ではない認知機能障害によって特徴づけられる症候群、軽度認知障害の患者に向けられてきている。多くの軽度認知障害患者は、アルツハイマー病患者と同じ形態学的変化を示し、軽度認知障害患者の年間アルツハイマー病診断率は10~15%である。それ以外の人たちは軽度認知障害の良性型で、症状の進行を示さないが、最終的に他の型の認知症を発現する場合もある。

 脳における生化学的変化は、脳脊髄液(CSF)において反映され、診断ツールとして利用可能なアルツハイマー病の中心的発症過程に対するバイオマーカー開発のため、集中的な研究努力が成されてきている。数多くの研究は、アルツハイマー病患者が、T-tau蛋白値とトレオニン(スレオニン)181リン酸化部位でのリン酸化タウ(P-tau)値が高くなり、ベータアミロイド1-42(Aβ42)値が低くなるという、特徴的なCSF変化を呈することを示してきている。いくつかの研究は、初期アルツハイマー病を有する軽度認知障害患者が、同様のCSF変化を呈することも示してきている。しかしながら、これらの研究のほとんどは、小規模であり、単独のセンターで実施されている。さらに、提唱されている境界値同様に、バイオマーカー境界値確立のための原則も様々である。それ故に、本研究では、軽度認知障害患者の大規模な不均質な集団において、初期アルツハイマー病を識別することに対するCSFのAβ42・T-tau・P-tauの診断精度評価のため、多センター型研究を実施した。

●方法

(1)対象者
 研究は、Standards for Reporting Diagnosis Accuracy(STARD)基準に従って設計された。12センターの記憶障害クリニックが研究に関わった。研究参加者は、軽度認知障害またはアルツハイマー病の診断に至る症状で診察に来る一連の患者、および健康な対照群であった。アルツハイマー病患者と健康な対照群からの検証結果は、指標試験に対する境界点を定義するための横断的研究に用いられ、その後、前向きな軽度認知障害コホート研究において評価された。

(2)脳脊髄液標本
 すべての対象者が、第3/4または第4/5腰椎棘突起間での腰椎穿刺を受けた。深刻な有害事象は報告されなかった。標本はポリプロピレンチューブに保管され、直ちに-80℃ないしは-70℃に凍結された。二つのセンターでは、標本は一時的に凍結前に3時間氷上に保管された。直後に凍結された標本からの1断片および凍結前に氷上に保管された標本からの1断片を用い、10標本で行った相互試験では、標本取り扱いにおけるこの違いからのバイオマーカー値においての差異は全くないかわずかなものであり、Aβ42の相関係数R=0.75 、T-tauのR=0.99、P-tauのR=0.99となった。オランダのアムステルダム、フィンランドのクオピオ、ドイツのミュンヘンのセンターからの標本を除いては、すべてスウェーデンのサルグレンスカ大学病院臨床神経化学実験室で分析された。これら3センターからのサブセットは、分析結果における場所間変動を調整するため、2008年にサルグレンスカ大学病院で再分析された。もし3センターからの結果が、サルグレンスカ大学病院での結果から変動係数で2よりも大きな差異を示した場合は、加重式が用いられた。

(3)生化学的手順
 脳脊髄液のT-tau濃度は、リン酸化状態にかかわらず総タウアイソフォーム計測をするためにつくられたサンドイッチ酵素結合免疫吸着測定法(ELISA法)を用いて測定された。トレオニン(スレオニン)181リン酸化部位でのリン酸化タウ(P-tau181p)は、サンドイッチELISA法を用いて測定された。Aβ1-42値は、1残基および42残基アミノ酸を含むAβ計測のためにつくられたサンドイッチELISA法を用いて測定された。スウェーデンのマルモーとゴーテボーグ2センターに対しては、CSFバイオマーカーはLuminex xMAPテクノロジーによって測定された。臨床的診断および他の臨床的情報を伏せられた熟練技師が、分析を実施した。生化学的手順は、すべての実験室において同じであった。

(4)臨床的手順
 それぞれのセンターにおいて、可能性のある記憶障害を評価され、アルツハイマー病ないしは軽度認知障害を有していることが分かった患者が含まれた。認知障害を専門とし、CSFバイオマーカーの結果を伏せられた医師が、病歴・診察・ミニメンタルステート検査(MMSE)での認知機能検査を含め、すべての対象者を評価した。常用血液分析とアポリポ蛋白E(APOE)がラボ評価に含まれた。

 軽度認知障害は、Petersenらによる、International Working Group on Mild Cognitive Impairment基準(*1)により診断された。患者本人・代理人・または両者からの詳細な病歴と合わせて、神経心理学的検査によって客観的に確認され、年齢と教育水準で補正をされた記憶低下、ないしは他の認知領域における低下があるが、日常生活動作における障害が全くないか最低限であり、「精神障害の診断と統計の手引き-第4版」によって定義される認知症基準には適合しないものが含まれている。標準的な軽度認知障害基準は、診断を確立するための最適な検査を定義していないため、地域の記憶障害クリニックの慣例に従い、いくつかの検査の組み合わせによる認知検査が実施された。これらには、Consortium to Establish a Registry for Alzheimer's Diseaseの組み合わせ認知検査、Alzheimer's Disease Assessment Scaleの認知機能評価、ウェクスラー成人知能検査改訂版、トレイルメイキングテストメイキング、言語流暢性試験、学習試験、遅延想起試験、時計描画が含まれた。

 アルツハイマー病は、「国立神経疾患・伝達障害研究所、および脳卒中/アルツハイマー疾患・関連疾病協会」基準を用いて診断された。除外基準は、脳腫瘍・硬膜下血腫・進行中のアルコール乱用など、認知機能障害に対する既知の原因とした。抑うつ症状やビタミンB12ないしは葉酸塩の低血漿濃度は、治療はされたが除外には至らず、認知機能に影響を与えない症状に関しても同様とした。

 軽度認知障害患者は、認知症と診断を受けるまで、ないしは少なくとも2年間認知的に安定しているとされるまで、最低年に1回臨床的追跡調査を受けた。軽度認知障害患者におけるアルツハイマー病の臨床的診断は、研究における参照基準である初期アルツハイマー病を定義づけた。National Institute of Neurological Disorders and Stroke-Association Internationale pour la Recherche et l'Enseignement en Neurosciences(NINDS-AIREN)による血管性認知症必要条件、またはErkinjunttiらによって確立された皮質下血管性認知症基準(*2)を満たす患者は、血管性認知症と診断された。Mckeithらによる基準(*3)がレビー小体型認知症に、Brunらによる基準(*4)が前頭側頭型認知症に対して用いられた。

 対照群は、MMSE25点超で認知的症状がなく、活動性神経系疾患または精神疾患のないボランティアで構成された。ボランティアは、主に広告を通じて募集された人か、患者の配偶者かであった。ボランティアの少数は、客観的認知機能障害は存在せず、追跡調査期間の少なくとも1年間において認知低下は見られなかったものの、主観的認知問題によって記憶障害クリニックを受診した者を含んだ。

 参照基準確立以前にCSF標本採取が計画され実施され、これによって前向き研究が行われた。

(5)統計分析
 定量値は、中央値と幅で表した。ROC曲線下面積は、初期アルツハイマー病患者のすべてのバイオマーカー対他の軽度認知障害患者に対して算出した。アルツハイマー病を識別する独立したバイオマーカーに対する境界値は、感度85%で算出した。多バイオマーカーに対しては、ロジスティック回帰分析が用いられ、CSFのAβ42・T-tau・P-tau・ベースライン時MMSE得点・年齢を連続変数として、性別とAPOE遺伝子型を数値外変数として、初期アルツハイマー病リスクに対する解析方程式を導き出した。先行する複数の研究において、有効な診断情報を提供すると示されてきていることから、Aβ42のP-tauに対する(Aβ42/P-tau)比率が分析された。最良モデルから、アルツハイマー病患者対同等年齢対照群における85%の感度を有する境界方程式が作られた。

 すべての境界点は、最初に初期アルツハイマー病患者対健康な対照群において評価され、最終段階で、軽度認知障害患者群においてのみ評価された。感度・特異度・尤度比・的中率が算出された。陽性尤度比は、感度÷(1-特異度)、陰性尤度比は、(1-感度)÷特異度である。陽性尤度比は、真陽性の全陽性に対する割合、陰性尤度比は、真陰性の全陰性に対する割合となる。

 境界方程式上で病的結果を有する軽度認知障害患者における初期アルツハイマー病に対するリスクを、境界方程式上で正常結果となる軽度認知障害患者におけるリスクで除し、相対危険度を算出した。

●結果

(1)症例別
 合計で750人の軽度認知障害患者、529人のアルツハイマー病患者、304人の健康な対照群が研究に含まれた。軽度認知障害患者のうち、420人は、中央値3年、幅は2~11年、少なくとも2年間追跡調査を受けた間に認知症へと進行せず、安定状態で経過する軽度認知障害であった。追跡調査期間中に、330人の軽度認知障害患者は、臨床的認知症へと認知症状の進行を示した。これらの患者中、271人がアルツハイマー病と診断され、ベースライン時に初期アルツハイマー病を有していたことになり、59人は他の認知症で、28人が血管性認知症、14人がレビー小体型、7人が前頭側頭型、10人が神経系疾患と認知症を併せ持っていた。軽度認知障害標本における各年のアルツハイマー病診断率は、最初の4年間では約11%であった。転換への中央値は、アルツハイマー病で24カ月(幅2~126カ月)、血管性認知症で30カ月(幅6~77カ月)、レビー小体型で12カ月(幅7~52カ月)、前頭側頭型で22カ月(幅6~37カ月)、その他の認知症で36カ月(幅24~60カ月)となった。

(2)バイオマーカー値
 CSFのAβ42・T-tau・P-tau値のいずれかが、19人のアルツハイマー病患者、1人の対照群、1人の軽度認知障害患者において欠測値となった。診断群間での比較は、センター間での分析評価差異によって複雑なものとなった。CSFのAβ42における実質的差異が見られた一方で、T-tauとP-tauにおける差異はずっと小さかった。対照群における平均バイオマーカー値が、対照群の全体平均から変動係数2よりも大きな差異を示したセンターでは、該当センターからの全対象者の数値が、全体平均に対して標準化された。ノルウェーのスタバンガーではアルツハイマー病患者のみ、オランダとギリシャおよびドイツのハイデルベルクでは軽度認知障害患者のみが対象となったため、それぞれ、アルツハイマー病患者のみ、または軽度認知障害患者のみのセンターに対する手順が実施された。それぞれのセンターにおいて、診断群間におけるCSFバイオマーカー値での相対的差異は一致しており、センター間での差異に対する標準化を支持し、対象者選択は差異に対する説明とはならなかった。不確定な結果は存在せず、外れ値に対して制約は与えられなかった。

 初期アルツハイマー病を有する軽度認知障害患者は、健康な対照群・安定状態で経過する軽度認知障害患者(以下、安定的軽度認知障害患者と表記する。)・他の認知症を伴う軽度認知障害患者との比較において、より高いCSFのT-tau値およびP-tau値、より低いAβ42値となった。しかしながら、他の認知症を下位群により分析すると、レビー小体型認知症と診断された軽度認知障害患者におけるAβ42値は、初期アルツハイマー病を有する軽度認知障害患者の値と著しくは異ならなかった。

 すべての研究群において、P-tauはT-tauと強い相互関係にあり、相関係数R=0.77~0.88、P≦0.001となった。Aβ42は、対照群においてはT-tau(R=0.16、P=0.004)とP-tau(R=0.27、P<0.001)と、安定的軽度認知障害患者群においてはT-tau(R=-0.16、P<0.001)と相互関係にあった。対照群においては、年齢がT-tau(R=0.22)とP-tau(R=0.23、P<0.001)と相互関係にあった。安定的軽度認知障害患者群においては、年齢がAβ42(R=-0.23)、T-tau(R=0.32)、P-tau(R=0.22)と相互関係にあり、P<0.001となった。アルツハイマー病患者群、または初期アルツハイマー病患者群においては、年齢とバイオマーカー値の間に相互関係は存在しなかった。

 ベースライン時のMMSE得点は、対照群またはアルツハイマー病患者群ではバイオマーカー値との相互関係は見出されず、P=0.10~0.97となった。軽度認知障害患者群では、ベースライン時MMSE得点が、Aβ42(R=0.20、P<0.001)、T-tau(R=-0.24、P<0.001)、P-tau(R=-0.23、P<0.001)と相互関係にあった。

 APOEε4保有者は、非保有者との比較において、より低いAβ42中央値となっており、対照群では543ng/L(幅315~958)対682ng/L(幅182~1,214)でP<0.001、安定的軽度認知障害患者群では479ng/L(幅121~1,210)対659ng/L(幅125~1,420)、P<0.001、初期アルツハイマー病患者群では344ng/L(幅96~930)対402ng/L(幅108~1,075)、P<0.001となった。安定的軽度認知障害患者群では、APOEε4はより高いT-tau中央値339ng/L(幅71~1,050)対284ng/L(幅31~1,195)、P=0.001、およびより高いP-tau中央値61ng/L(幅21~133)対53ng/L(幅20~163)、P=0.003とも有意に相互関係にあり、対照群では、より高いT-tau中央値320ng/L(幅55~915)対268ng/L(幅42~846)、P=0.006とも有意に相互関係にあった。

(3)初期アルツハイマー病を予測するバイオマーカー
 バイオマーカー値による軽度認知障害患者における初期アルツハイマー病頻度が、T-tau五分位群とAβ42/P-tau比率五分位群とのペアワイズ(対での)組み合わせで調査された。T-tau値第5五分位群プラスAβ42/P-tau比率第1五分位群にいる軽度認知障害患者では、T-tau値第1五分位群プラスAβ42/P-tau比率第5五分位群にいる軽度認知障害患者との比較で、高い割合が初期アルツハイマー病患者となった。

 STARD基準における推奨に従い、85%での指標試験に対する感度をもって、全アルツハイマー病患者群対全対照群での独立したバイオマーカー値境界点を推定した。CSFのT-tau陽性は320ng/L以上、P-tau陽性は52ng/L以上、Aβ42陽性は482ng/L以下と定義された。これらの境界値を軽度認知障害患者のCSF値に適用させ、初期アルツハイマー病発現者をどの程度予測するのか調べると、以下の通りとなった。
1 Aβ42
①感度    79%(271人中215人、信頼区間95% 74~84%)
②特異度   65%(479人中321人、信頼区間95% 61~69%)
③陽性尤度比 2.3(信頼区間95% 2.0~2.6)
④陰性尤度比 0.32(信頼区間95% 0.28~0.36)

2 P-tau
①感度    84%(270人中227人、信頼区間95% 80~88%)
②特異度   47%(479人中225人、信頼区間95% 42~52%)
③陽性尤度比 1.6(信頼区間95% 1.4~1.8)
④陰性尤度比 0.34(信頼区間95% 0.31~0.37)

3 T-tau
①感度    86%(271人中232人、信頼区間95% 82~90%)
②特異度   56%(479人中268人、信頼区間95% 51~61%)
③陽性尤度比 1.9(信頼区間95% 1.7~2.2)
④陰性尤度比 0.26(信頼区間95% 0.23~0.29)

 ROC曲線下面積は、Aβ42が0.78(信頼区間95% 0.75~0.82)、P-tauが0.76(信頼区間95% 0.72~0.80)、T-tauが0.79(信頼区間95% 0.76~0.83)となった。

 最終指標試験は、全アルツハイマー病患者群対全対照群の訓練集合において組み立てられた境界点、85%超でのアルツハイマー病集合に対する感度を伴い、ロジスティック回帰分析に基づくAβ42/P-tau比率(x)とT-tau(y)の組み合わせに対する方程式、y=3.694+0.0105xとして表された。この方程式が、第一段階で初期アルツハイマー病を有する軽度認知障害患者群対健康な対照群で、最終段階では、軽度認知障害患者群においてのみ評価された。

 先行する複数の研究に示される通り、バイオマーカーの組み合わせによる予測値は、いずれかの独立したバイオマーカーによる予測値よりも大きくなった。初期アルツハイマー病を有する軽度認知障害群と対照群との比較において、境界点方程式は、感度83%(270人中223人、信頼区間95% 78~88%)、特異度88%(303人中266人、信頼区間95% 84~92%)、陽性尤度比7.0(信頼区間95% 5.7~8.5)、陰性尤度比0.17(信頼区間95% 0.14~0.21)となった。軽度認知障害患者全体のみに適用すると、特異度72%(479人中345人、信頼区間95% 68~76%)、陽性尤度比3.0(信頼区間95% 2.5~3.4)、陰性尤度比0.24(信頼区間95% 0.21~0.28)となり、陽性的中率は62%、陰性的中率は88%となった。この方程式に基づく陽性結果を伴う軽度認知障害患者における初期アルツハイマー病に対する相対危険度は、5.2(信頼区間95% 3.9~6.9)となった。

 軽度認知障害患者のうち2年よりも長く追跡調査を受けた場合もあるので、安定的軽度認知障害患者に対して、追跡調査期間の長さの差異により、方程式の特異度も評価した。安定的軽度認知障害患者での追跡調査期間中央値である36カ月までの213人では、特異度73%(信頼区間95% 67~79%)、36カ月より長く追跡調査を受けた207人では、特異度72%(信頼区間95% 68~76%)、56カ月よりも長く追跡調査を受けた105人では、特異度74%(信頼区間95% 66~82%)となり、有意差は見られなかった。初期アルツハイマー病を有する軽度認知障害患者対特定の他の認知症を発現した軽度認知障害患者で方程式を検証すると、追跡調査期間中の診断によって特異度は57~86%の間で異なった。

●考察

 先行して小規模複数研究で見出されたように、大規模多センター型本研究において、CSFバイオマーカーのAβ42・T-tau・P-tauは、軽度認知障害患者がアルツハイマー病を発現することに対して、十分な精度での予測に利用され得ると決定した。先行研究よりも多くの患者が含まれていることから、多センターでの本共同研究が、単独センター型研究に関連するバイアスリスクをいくらか回避している。CSFバイオマーカー変化は、初期アルツハイマー病と有意に関連することが見出されたが、分析評価や患者評価におけるかなりのセンター間での変動は、標本取り扱いとともに臨床的評価の標準化が必要であることを示している。

 アルツハイマー病は有害な症状であるので、治療や追跡調査決定の基礎となる診断テストは、高い感度を有するべきである。多センター型本研究におけるCSFのAβ42・T-tau・P-tauというバイオマーカーは、83%の感度を有した。しかしながら、本研究で実施された標準化を考慮すると、示された詳細な境界値は、直ちにすべての記憶障害クリニックに適用されるものではない。もしこれらのバイオマーカーが全世界的に利用されるなら、実験室がお互いに測定を調和させられるような外的調整プログラムが必須であろうことも特筆する必要がある。記憶障害クリニックにおいてCSFのAβ42・T-tau・P-tauを利用することは、いくらかは偽陽性や偽陰性という結果になるであろうし、それ故、バイオマーカーは、主としてふるい分けツールとして有効で、詳細なさらなる臨床的追跡調査が必要となる個人を選択することになるかもしれない。さらに、これらのバイオマーカーは、将来的な疾患修飾性アルツハイマー病治療の臨床試験に対する研究人口を豊富にすることに役立つかもしれない。しかしながら、そのような治療が利用できるようになるまでは、現状アルツハイマー病の発現を変えることが可能ではないことから、バイオマーカー検査は、慣習的臨床的利用には一般的に適してはいないのである。

*1  Mild cognitive impairment--beyond controversies, towards a consensus: report of the International Working Group on Mild Cognitive Impairment
(http://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/15324367)
*2  Research criteria for subcortical vascular dementia in clinical trials
(http://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/10961414)
*3  Report of the second dementia with Lewy body international workshop: diagnosis and treatment. Consortium on Dementia with Lewy Bodies
(http://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/10496243)
*4  Clinical and neuropathological criteria for frontotemporal dementia. The Lund and Manchester Groups
(http://www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC1072868/)

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