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脚は第二の心臓 筋肉を動かそう

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大人が受けたい今どきの保健理科9

吉田のりまき

薬剤師。科学の本の読み聞かせの会「ほんとほんと」主宰

 心臓がポンプのような働きをして、体の隅々まで血液を届けていることは、皆さんよくご存じと思います。でも、心臓が血液を押し出す力だけで、血液は心臓に戻ってきているのでしょうか。

全身を旅する血液

 私たちの体は細胞からできています。生きていくためには、一つひとつの細胞に、酸素や栄養(理科では「養分」という)を届けなければなりません。このお届けの役割を担っているのが血液です。

 また、細胞からは二酸化炭素や不要物が出ます。これらが細胞の中に溜まらないよう回収するのも血液です。つまり、お届けと回収を休みなく行うために、血液は絶えず流れて全身を旅し続けなければならないのです。どんなに細胞が心臓から遠い場所にあっても、見捨てるわけにはいきません。

 このことは、小学6年と中学2年の理科で学習します。細胞や毛細血管といった言葉が出てくるのは中学になってからですが、小学6年でも、心臓のつくりや血液の流れ、酸素や養分と二酸化炭素などが入れ替わることは、文章や絵でとても詳しく解説されています。

 保健でも、血液のことは小学生から取り上げられています。でも、少し理科とは違っています。生活習慣病を予防することに重点が置かれた構成になっています。血管の中を血液が通りにくくなる様子や、脳や心臓の血管が詰まったらどうなるかといった話が出てきます。それだけ、現在は子どもの生活習慣病が増えているということなのでしょう。

重力に逆らう力が必要

 さて、心臓は胸の位置にあります。届けなければならない先は、胸より高い部分もあれば、低い部分もあります。地球上で暮らしている以上、重力が体にも働いています。血液が下へ移動するのは容易いと考えられます。しかし、上へ移動する時は、重力に逆らう力が必要になってきます。

 具体的に体の部分で考えてみましょう。頭へ血液を送る時は、心臓より高い位置に送り出すので、力強く押し出さなければなりません。でも、帰りは、血液は自然と下りてくることができます。

 脚はどうでしょう。足の先まで血液が下りていく時は、重力と同じ向きです。でも、戻る時は重力に逆らった向きになります。重力に打ち勝つだけの力を持っていなければなりません。さらにその力は、一瞬ではなく、生涯にわたって休むことなく、持続させていかなければなりません。

 しかし、私たちは何の負担も感じることなく日常生活を送れています。

 もちろん心臓が強い力で血液を押し出してくれているからですが、それだけではありません。心臓を助けるため、重力に打ち勝つ仕組みを体は備えているのです。

弁と筋肉が活躍

 それは、「戻ってくるな」「立ち止まるな」という仕組みです。「戻ってくるな」は、静脈の構造が関係し、「立ち止まるな」は、筋肉ポンプと言われるものが活躍します。

 一つ目の静脈の構造ですが、これは中学で学習します。血液が心臓に戻ってくる血管である静脈の所々に、逆流を防ぐ弁があるのです。

 弁は、口径の大きな方から小さな方へ向けて血液が流れる構造になっていて、一旦小さな方に移動した血液は、大きな方へ後戻りできません。重力に逆らって上に移動したら、重力で下に引っ張られても落ちてこないのです。

 ただし、血液の流れを加速させるものではないので、渋滞したり流れが緩慢になったりしたら、血液を動かす力が必要になります。

 そこで働くのが、二つ目の筋肉ポンプです。脚の筋肉が動くことで、動いた筋肉が静脈を外側から圧迫し、血液を押し出し、心臓に向かう流れを促します。特にふくらはぎの筋肉が、よくポンプの働きをしています。それゆえ、脚は第二の心臓とも言われます。

血栓症や静脈瘤と関連

 この筋肉ポンプについて、残念ながら義務教育では学習しません。小学生や中学生は、適度に運動し、じっと同じ姿勢で長時間いることがないので、意識しなくてもよいのかもしれません。

 しかし、大人はぜひ知っておいてほしいと思います。飛行機内で同じ姿勢で座っていた人がエコノミー症候群になったり、避難所暮らしが続いて動かずにじっとしていた人が下肢静脈瘤になったりしています。もし、筋肉ポンプのことを知っていれば、意識して脚の筋肉を動かして予防できたかもしれません。

 また、高齢者が自分で脚を動かすことができなければ、筋肉ポンプのことを知っている周りの人が、そっとその方の筋肉を動かしてあげるということもできます。

 重力を意識して、自分の体を助けるようなケアを積極的にしていくことが、健康維持に役立ちます。

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