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間違った体重管理 低栄養で不健康に

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大人が受けたい今どきの保健理科6

吉田のりまき

薬剤師。科学の本の読み聞かせの会「ほんとほんと」主宰

 三大栄養素は体内で相互変換していますが、タンパク質だけは少し違います。タンパク質不足にならないように留意してベスト体重を維持しましょう。

低栄養を招く誤解

 食べることは毎日欠かさず行いますし、おいしい食品への関心も高いので、多くの人が消化や代謝についての基本的な知識を持っています。最近では食育活動も広がっており、未就学児も健康に気をつけた食事の摂り方を学んでいます。

 ところが、これだけ身近にもかかわらず、間違った仕方で栄養摂取をして、低栄養になってしまう人がいます。色々お話を聞いていくうちに、多くの人があることを誤解しているのに気づきました。

 義務教育では、保健体育の小学3・4年生、家庭科の小学5年生で、体の成長に必要な栄養素について学びます。

 炭水化物・脂肪・タンパク質を三大栄養素と呼ぶことはご存じでしょう。

 理科では「栄養素」と呼ばず、「養分」という言葉を使います。植物が必要とする栄養分を表しているような印象ですが、生物全般に使われる言葉です。

 小学6年の理科では、食べ物を体に吸収しやすく養分に変えることを消化と呼ぶこと、養分が小腸から吸収され血液に乗って全身に運ばれることを教わります。炭水化物という言葉は出てこず、唾液がごはん粒のでんぷんを別の物質に変えることを、ヨウ素でんぶん反応で確かめています。

 中学の理科の教科書には「炭水化物と脂肪は、おもに生きていくために必要なエネルギーを得るもととして使われ、タンパク質は、体をつくるもととしても、エネルギーを得るもととしても使われる」と書かれています。また、消化によって炭水化物はブドウ糖に、脂肪は脂肪酸とグリセリンに、タンパク質はアミノ酸になること、それぞれが体にどのように吸収され、代謝されて排出されるのかといったことを学習しています。

栄養素は相互乗り入れ

 さて冒頭に書いた誤解の話です。

 多くの方が、「三大栄養素はずっと別々」のまま体の中で代謝され、「それぞれ別々に」体の中で役に立っている、と思っていらっしゃるようです。これは大きな勘違いです。

 三大栄養素の代謝経路は非常に複雑で、互いに関わって、時として「成り代わる」仕組みを持っています。このお蔭で、体は栄養的な危機状態から脱出することができます。逆に言えば、一つの栄養素に起こった過不足が、残り二つの栄養素にも影響してきます。

 このことを理解していないので、三つのうち一つの栄養素を極端に減らした体重管理を平気でしてしまうのです。体重がうまく減ったとしても、減らしてはならない栄養素が知らないうちに失われているかもしれません。体重の増減だけでは分からないのです。

脳は筋肉より優先

 例えば炭水化物が極端に少ないような場合です。タンパク質不足を心配しなくてはいけません。

 というのも脳細胞は、ブドウ糖だけを栄養源にし、ブドウ糖が不足すると脳が機能せず生命の危機となります。そこで、ブドウ糖の量をいつも見張る係が体内にあって、口から入ってくる炭水化物の量が足りずブドウ糖が少なくなってくると、肝臓に蓄えられたグリコーゲンからブドウ糖を作ります。それでもブドウ糖が足らないと、タンパク質の代謝経路に働きかけ、ブドウ糖を確保しようとします。

 この連載の4回目でご紹介したように筋肉はとても重要ですが、脳の細胞の働きを止めるわけにはいかないので、筋肉の細胞を維持することよりブドウ糖を確保することの方が優先になるのです。

 生活習慣病を予防する世代が次に留意すべきは、寝たきりにならないようにすることです。バランスを間違えた食事制限で、わざわざ筋肉を減らしてしまっては、元も子ありません。

タンパク質だけ特別
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 タンパク質が足りない時、他の栄養素は助けてくれないのかと思われるかもしれません。しかし、タンパク質にだけN(窒素)が含まれている(図参照)ため、他の栄養素がタンパク質に代わることはできないのです。

 体重管理をする時は、三大栄養素の相互変換の図を意識して、タンパク質が不足することがないように心がけたいものです。

教科書をご覧になりたい方へ  都道府県が設置する教科書センター一覧は、文部科学省のサイトに掲載されています。

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