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サプリメントの規制緩和は消費者利益につながるか

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手軽に栄養バランスを補えるサプリメントは重宝しますよね。ただ、サプリメントがあまりに多く出回っていて、どれを選んでよいものか迷われることも少なくないと思います。商品ラベルも大事な判断材料ですが、そこに記載される内容はどこまで信用できるか、考えてみたことはあるでしょうか? 今、その規制に動きが出てきていることは、あまり知られていないのではないでしょうか。

大西睦子の健康論文ピックアップ91

大西睦子 内科医師、ボストン在住。医学博士。東京女子医科大学卒業。国立がんセンター、東京大学を経て2007年4月から7年間、ハーバード大学リサーチフェローとして研究に従事。著書に「カロリーゼロにだまされるな――本当は怖い人工甘味料の裏側 」(ダイヤモンド社)。

大西睦子医師に、食やダイエットなど身近な健康をテーマにした最新学術論文を分かりやすく解説してもらいます。論文翻訳のサポートとリード部の執筆は、ロハス・メディカル専任編集委員の堀米香奈子が担当します。

今日、マルチビタミンやコラーゲンなど、サプリメントは日本人にとっても決して特別なものではありません。若者はもちろん、健康を気にする中高年や、関節痛等に悩む高齢者にも使用が広がっているようです。薬よりも気軽に手を伸ばせる健康食品という位置づけのせいかもしれません。そんな中、アベノミクスの成長戦略の一環として、政府は昨年、サプリメントのラベル表示の規制を緩和する方針を打ち出しました。この施策を、私たち消費者は果たして歓迎してよいものでしょうか。サプリメント大国である米国の事例をもとに考えてみましょう。


「効果なし」でも拡がる市場

ジョンズ・ホプキンス大学の研究者らの報告によれば、米国では1988-1994年の成人のサプリメント利用が42%だったのに対し、2003-2006年には53%に増加。特に最も利用されているマルチビタミンのサプリメントは30%から39%にまで伸びています。次いでカルシウム製剤、オメガ3脂肪酸(魚油由来のDHAなど)が後に続きます。実はマルチビタミンその他のビタミン剤については過去の様々な大規模調査で「効果なし」との結果も出ているようですが、そうした報告にもまったく影響を受けることなく、概ね売り上げを伸ばしてきました。それに伴い、米国のサプリメント業界も成長を続けています。2010年には年間の売り上げが28億ドル(約2.8兆円)に達し、こうした傾向は英国や欧州でも見られると言います。
Guallar E, Stranges S, Mulrow C, Appel LJ, Miller ER 3rd.
Enough Is Enough: Stop Wasting Money on Vitamin and Mineral Supplements.
Ann Intern Med. 2013 Dec 17; 159(12):850-1.

もちろん、有効性が裏付けされたサプリメントもあります。例えば、妊婦は葉酸が欠乏しやすく、胎児の先天性欠損症の原因となりますが、予防には葉酸のサプリメントが効果的です。参考にできるNIHのサイトもあります。

ただ、米国人がサプリメントを愛用する理由については、「骨を強くしたい」「コレステロールを下げて心疾患を予防したい」といった特定の目的に基づくとは限らないと、NIHの栄養疫学者らは報告しています。人々はサプリメントによって、漠然と、より健康的で好ましいライフスタイルを実現したいと考えているようです。実際、医師や専門家の指導の下に使用されているサプリメントは、全体の4分の1に満たないという調査結果でした。

Regan L. Bailey, Jaime J. Gahche, Paige E. Miller, Paul R. Thomas, Johanna T. Dwyer
Why US Adults Use Dietary Supplements
JAMA Intern Med. 2013; 173(5):355-361.
doi:10.1001/jamainternmed.2013.2299.


健康被害で販売禁止も

効果がないかもしれない、というだけならまだ良いほうかもしれません。というのも、サプリメントには安全性についての懸念がつきまとうのです。

例えば2004年、Asia MedLabs社の「VITERA-XT」というダイエット・筋肉増強用サプリメントを、FDA(米国食品医薬品局)は販売禁止としました。調査により、ラベルに表示されていた「伝統的なアジアのハーブ製剤」の一つとして天然植物由来で漢方薬(麻黄など)の主成分であるエフェドリンが含まれていると判明。覚醒や代謝促進の効果がある反面、血圧が上がって循環器に負担がかかり、高血圧や脳卒中、心筋梗塞、ひいては死に至る危険性があると認めたのです。実際、エフェドリンに関連して既に155人が死亡、健康被害の訴えも16000件以上に上り、社会問題となっていました。ちなみに、米国での報道はこちら。  

同じくダイエット・筋肉増強用として最近人気の成分、ジメチルアミルアミン(dimethylamylamine:DMAA)も、副作用として血圧上昇、息切れ、心血管障害、さらには心臓発作を引き起こすことがあるため、やはりFDAが販売禁止を促しています。DMAAは、特にカフェインといっしょに摂取すると、そのリスクが高まります。


病気の治療にも悪影響が懸念されます。サプリメントは、疾患を治療、診断、緩和、予防するものではありません。治したり予防したりできないだけならまだしも、他に投与中の医薬品の効果を妨げたり過度にしたり、手術前や特定の健康状態に不必要な影響を与えることも報告されています。以前からβ-カロチンは肺がんには逆効果であることや、ビタミンEが全死因の死亡率に悪影響を与えるとされてきました。前出のジョンズ・ホプキンス大学の研究者らは、β-カロチンやビタミンE、高用量ビタミンAのサプリメントの過剰摂取は、かえって体に害を及ぼすことを報告。ビタミンやミネラルのサプリメントに無駄なお金を費やすことはやめるべきと主張しています。


安全性の証明不要

そもそも、なぜサプリメントで健康被害などという事態を招いたのでしょう?

サプリメントの位置付けは、薬でも食品でもありません。どちらかと言えば食品寄りで、販売前にFDAの承認を必要としません。つまり安全性や有効性、科学的根拠に基づくことを、証拠をもってFDAに証明する必要がないのです。それどころか、含まれる成分が副作用を引き起こすことが知られていても、製造業者は副作用について消費者に通知する必要さえないのです。


サプリメントのラベル表示の内容が正確かつ真実であること、安全であることは、製造業者や販売代理店の責任です。「この製品は栄養不足を助け、健康をサポートします」または「健康上の問題のリスクを低減します」と表示することも、効果が本当であれば可能です。ただし同時に、「これはFDAによって評価されていません。この製品は、疾病の診断、治療、治癒、予防を目的としたものではありません」とも示さなければなりません。また、「特定の疾患または状態の治療、予防または治癒」などと表示した場合は、未承認薬となるので違法です。もちろん、先にご紹介した例のように実際に問題が起こり、安全でないことをFDAが発見した場合は、FDAは業者に警告を発するか、市場から製品を排除するなどの行動を取ることができます。ただ、エフェドリンは16000もの副作用報告によってようやく販売禁止になったことも、覚えておいたほうがよいでしょう。


魔法の健康サプリはない

翻って、日本ではどうでしょう。

内閣府の実態調査資料によれば、日本国内における健康食品・サプリメントの推定市場規模は1兆4746億円、潜在規模はその倍以上とされています。様々なメディアも1~2兆円市場と報道しています()。

あまり大きく報道されていませんが、日本でも来年を目処に、サプリメントや健康食品の機能性表示が規制緩和される見通しです。これまで、国の審査で有用性が認定された特定保健用食品(トクホ)や栄養機能食品に限り、効能や機能の表示が認められてきました。しかし昨年6月に閣議決定された「規制改革実施計画」に、2015年度から含有成分の有用性が確かなサプリメントにも機能性表示を認めることが盛り込まれたのです。

しかしながら、議論は続いています。

サプリメントは今や量販店やコンビニでも手に入ります。専門家の指導の下に購入する機会など、実のところ圧倒的に少ないのではないでしょうか。そうした状況で、安易に機能性を謳えるようにしてしまうことが、本当に消費者の利益につながるかは疑問です。規制緩和によって米国での事例のようなことが起きないか、安全性を犠牲にすることに本当にならないか、不安が残ります。今回の規制緩和では米国式表示とまでは行きませんが、今後さらに変わっていく可能性も否定はできませんので、十分注意が必要です。


いずれにしても健康増進・維持には、適度な運動とバランスのいい食事、睡眠が基本です。これらに置き換わる、魔法のサプリメントはないのです。サプリメントを活用してメリットを得たい場合は、個別に専門家の意見を求め、慎重に慎重を重ねてその必要性を検討すべきでしょう。議論されている規制緩和が、単なる市場拡大だけでなく、サプリメントの正しい知識と利用、ひいては国民の健康につながることを期待します。

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