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解熱鎮痛剤で男性不妊の可能性――子供の頭痛薬は大丈夫!?

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私もしばしばお世話になっている頭痛薬(解熱鎮痛剤)の有効成分に、男性不妊を招く可能性が指摘されているようです(CNN「鎮痛薬のイブプロフェン、男性不妊に関係か」)。私の頭痛持ちが遺伝して、小学校低学年から日常的に頭痛薬のお世話になっている息子。そんなに飲んで大丈夫か、心配になってきました。

堀米香奈子 ロハス・メディカル専任編集委員

記事によると、世界各国で市販の解熱鎮痛剤の成分として一般的に使われている

アスピリン、アセトアミノフェン(別名パラセタモール)、イブプロフェンの3薬品について、妊婦が服用した場合の影響を調べていたところ、3薬品とも男の赤ちゃんの睾丸に影響を及ぼす
ことが判明。そこで研究チームは成人男性への影響についても研究に乗り出し、特に、
3種類の中で最も強い影響が確認されたイブプロフェンに重点を絞った

ところ、生殖機能が低下する中年期のようなホルモンの状態となり、生殖障害やうつ、心血管系疾患のリスク上昇に関係する症状を引き起こしていた、とのこと。この研究結果について、
若い男性が短期間のみイブプロフェンを服用した場合であれば、影響が出たとしても、確実に元の状態に戻ることができると研究者は解説する。しかし、長期間イブプロフェンを服用した場合、健康にどんな影響が出るかは分からないとしている。

というのです。

頭痛持ちの長男は、ひどいときは週1~2でアセトアミノフェンを服用します。「小児用バファリン」です。アセトアミノフェンは、子供に処方される最も一般的な解熱鎮痛剤で、比較的安全、とかかりつけ医に聞いていたからです。実際、小児科で処方される「カロナール」「アンヒバ」等も、要はアセトアミノフェンです。

ちょっと調べたところ、厚労省の審議会の報告書の中間サマリーがネット上にありました。そこでも、アセトアミノフェンは「規定された用法・用量の範囲内であれば、小児に対して極めて安全性が高い薬物であると考えられる」としています。「安全性が高い」とは、用法・用量を守れば小児でも、皮疹や血中成分への影響、肝障害といった急激な副作用の危険性は低い、ということらしいです。

ただ、気になるのは、今回の研究に関する上記の報道では、イブプロフェンのみ、生殖機能への問題が検証された理由を「3種類の中で最も強い影響が確認された」ためとしているのですが、元ネタである論文をチェックしても、そのようには書かれていないことです。論文では、「一般の使用者数の増加や、特にトップアスリートによる使用の増加に鑑みて、ここでは、イブプロフェンが特に興味深い」ことを理由として挙げています。

つまり、元ネタの論文では、イブプロフェンに問題がある可能性は言っていますが、それと比較して他の2つなら大丈夫そうだ、そのためにイブプロフェンのみ検証した、などとは全く言っていないのです。

そこで、元の論文の中で、3つの解熱鎮痛剤について言及している文章を探し、その部分の引用文献を読んでみることにしました。ただ、それが有料のレビュー論文だったのです。購入しようか迷っていると、そのレビュー論文の引用文献が列挙されていましたので、まずそちらをチェックすることに。

ところが、レビュー論文だけあってその引用文献が163もあるのです。1つ1つチェックするのは膨大な作業量になります。私は途中で諦めて、イブプロフェンが「3種類の中で最も強い影響」を及ぼすことを示す論文がないか、関連単語を元に検索して探してみることにしました。

そうして出てきたいくつかの論文には、

●妊婦がアセトアミノフェンを4週間、特に妊娠初期~中期(28週まで)に摂取すると、停留精巣(出生前に腹部で発生した精巣が陰嚢へと移動することができない疾患)のリスクが上がる(コホート研究。論文はこちら
●特に、妊娠中期(第16~28週)に摂取すると停留精巣のリスクが上がる(コホート研究)。また、マウス実験では、母マウスの胎内でアセトアミノフェンに曝された子マウスでは、肛門生殖器間
距離
の減少が見られ。(論文はこちら

といった生殖機能へのリスクが示されていました。

つまり、アセトアミノフェンは、妊婦が摂取するタイミング等によっては、男の胎児の生殖機能に悪影響が出る可能性がある、ということです。生殖機能という点では今回の報道に通じるものがあります。(なお、生殖機能ではありませんが、「アセトアミノフェンやアスピリンを摂取していた妊婦から生まれた子では、脳性麻痺のリスクが高くなる」ことを示したコホート論文もありました)

若い男性の場合、イブプロフェンでも短期間なら大丈夫、と研究者は解説しているようですが、小児が、しかも高頻度で、アセトアミノフェンを常用した場合の将来的な生殖機能への影響は、現段階では分からない(未検証)ようです。不安は払しょくできませんでした。

長男の頭痛は私譲りで、私自身も母親譲りの頭痛持ち。頭痛にも種類がありますが(詳しくはこちら)、私の場合は主に緊張型頭痛で、血行が悪い起きやすくなります。肩こりや目の疲れとも密接に関係します。ひどい寝不足の時や月経時には特に深刻です。痛みを我慢していれば治るかと言うと、残念ながら、かえって悪化します(理由はこちら。痛みが痛みを呼んでしまうんですね)。頭痛が酷くなると、吐き気がしてきて、もう何もできなくなります。

長男も症状や、頭痛前後の状況を見ていると、私とほぼ同じ。軽い時は、目からこめかみ、全体から首、肩にかけてをマッサージしてあげると、症状が和らぐようです。でも、それでは限界があり、放っておけばやはり悪化してしまいます。小学生とはいえ寝てばかりいられないですし、昼間から眠ってしまっては生活リズムや体内時計も乱れてよくないので、「小児用バファリン」に頼らざるを得ないのです。

今までは、「お医者さんも出すのだから、アセトアミノフェンなら大丈夫」と、よく知らないまま使ってきました。間違った使い方はしていないのかもしれませんが、安易な姿勢だったことは否めません。反省しました。

素人としてできることをしようと思います。できるだけ薬に頼らずに済むよう、頭痛そのものの予防策を考えることが必要ですね。私もこれを機に、もっと真剣に、子供に頭痛の兆候が出るもっとずっと前に、何か日常的に出来ることはないか、例えば睡眠リズムや運動の取り入れ方など、本人をよく観察しながら、見つけていきたいと思います。そして、それでも頭痛が出てしまって解熱鎮痛剤使う場合には、とにかく定められた用法・用量をきっちり守ること。どんな薬も、一歩間違えれば「毒」。それをいいとこどりしようと、上手に活用しているだけなんだ、と肝に銘じたいと思います。

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