全国の基幹的医療機関に配置されている『ロハス・メディカル』の発行元が、
その経験と人的ネットワークを生かし、科学的根拠のある健康情報を厳選してお届けするサイトです。
情報は大きく8つのカテゴリーに分類され、右上のカテゴリーボタンから、それぞれのページへ移動できます。

「忖度」が風評被害を助長 ――世界一安全なお米も売上回復せず!

  • このエントリーをはてなブックマークに追加

先日開催された「現場からの医療改革推進協議会 第12回シンポジウム」(12月2・3日)で、東日本大震災を発端とする福島県の風評被害が、7年を経ようとする今も根強く残っていることが報告されました。

堀米香奈子 ロハス・メディカル専任編集委員

登壇者の一人、福島民友新聞代表取締役社長の五阿弥宏安氏によると、今、福島では確実に復興・再生が進んでいるものの、「光が強まるほどに影は濃くなる」、まさにそんな状況だそうです。

「光」の側面としては、

●放射線の染料は大幅に減った。自然な減少もあるが、人為的な除染の成果でもある。今、避難地域では最大時12%から3%に減少。避難している人も5万人を下回った。
●日本中、世界中から、科学分野スポーツ分野文化分野、各方面から福島のために人材が集まっている。地元の中高生でも、福島のために働きたいという子供が震災前より増えているようだ。

とのこと。

一方、「影」としては、

●人がなかなか戻らない。自治体によっては5~6割戻ってきているが、今年4月に解除されたばかりの富岡町は1%未満。避難した人は、避難先で新しい人生を築いてしまっている。しかも避難先の方がコンビニや病院などが近く、生活に便利。もういちど不便なところに戻るのは難しい。
●原発事故による風評被害がなかなかなくならない。東京都民対象のアンケート(大手新聞)では、福島産の食品の購入をためらう人が未だに25%。消費者庁の調査では15%。人や海外に勧める時にも、30%以上の人が「ためらう」とのこと。
●しかし、実際には福島産の食品は安全。お米も、世界一厳しい「全品全袋検査」を実施しており、1000万袋が全て検査されている。2014年以降、1袋も基準値を超えるものは出ていない。しかし、価格が戻らない。
●旅行者も激減した。例えば会津を訪れる修学旅行生はかつての6割。まして外国人観光客など全然見かけない。震災前は韓国人が温泉とゴルフを目的にツアーでやってきていた。福島県民の韓国ツアーを組んでも、韓国の航空会社から離発着を福島空港でなく仙台空港に変更してくれと要求があった。登場する乗組員が不安がっている、あるいは韓国人の客が福島に降り立った飛行機を拒否するためと聞いた。

としています。震災後、放射線や放射能についての正しい知識(基本から知りたい! という方はこちらをどうぞ)がきちんと浸透しないまま、いまだに風評被害が残っているのですね。ただ、それを消費者の不勉強のせいにばかりはできません。

五阿弥氏は、国内に関しては、「小売りや卸が勝手に忖度して、消費者は不安がるのではと、福島産を避ける傾向もある」「安全が確認されても、いったん店頭の棚をほかの商品に奪われると、もうその場所を取り戻せない。一度入った商品をどかすのは困難」と指摘しています。流通・販売側が消費者の拒絶を恐れて勝手に気を回した結果、「福島産」の食品が店頭で見かけにくいものになっている。または、流通・販売の仕組みや慣習が「福島産」食品の復活を阻んでいる、というのです。

五阿弥氏の言うとおり、「安全は証明できるが、安心を押し付けることはできない」もの。
人は「習うより慣れよ」で、見慣れないものには手を伸ばしません。「不安がるのでは」との忖度が、不安を作り出しているというわけです。

さらに、「メディアの責任」もあると五阿弥氏。例えば、空港の線量の問題でも、「福島空港の放射線量は0.08、福島市内は0.1~0.2。県内の多くの場所も0.1~2」なのに対し、「ソウルは0.09(!)、上海やフィンランドは0.59、デンマークは0.33」(単位は、マイクロシーベルト/時間)だと言うのです。こういったことを、「福島の地元紙はきちんと取り上げるけれども、全国紙は取り上げない」と。(なお、線量データはこちら

また、「反原発運動や再生可能エネルギーの普及は、それはそうだと思う。ただ、福島を利用してもらっては困る」という地元の本音も。特に、「海外から記者が来ると、必ず『どこが危ないのか』をネタにするもの」ですし、たしかに「報道価値はある」と五阿弥氏。しかし、「そうした区域は福島県のたった3%。残る97%は、もともと安全な場所や安全を取り戻した場所ですが、それに触れられることがない」というのです。

印象的だったのは、「首都圏に住んでいると、福島の広さを感じないけれども、実は東京・千葉・神奈川を合わせた広さがある。例えば銚子で何かあった時に、箱根も同じ状況ではと心配するでしょうか?」「白いカラスは、縁起が良いともてはやされますし、全国どこでも見られるものです。しかしそれがもし福島で発見されると、『原発の影響だ』などと言われてしまいます」という指摘です。

人はどうしてもセンセーショナルな情報に飛びつきがちですし、そうした情報を聞きたがります。インターネットやスマホが発達し、ますます玉石混淆となった情報の中から、自分の必要な情報を取り出す作業は難しく面倒です。どうしても分かりやすい見出しやフレーズに頼り、場合によってはそれだけで分かった気になってしまうことも多いのでは? 情報提供側のモラルが問われるところです。

また、一受け手としても改めて、冷静に一歩下がって物事を俯瞰的に眺めるよう努力し、客観的事実を正しく読み取らねばと思いました。登壇者の一人、ワセダクロニクル編集長の渡辺周氏の言葉を借りれば、例えば新聞の紙面に「何が書いてあるか、よりも、何が書かれていないのか」を想像する。紙面のすぐ周辺部分に何があるかを推測することが大事。これは確かにそうだな、と思いました。特に、「短い記事」は、何が書けなかったか。詳細を知っていても書き込めない、あるいは、記者にも知らされていない、何かがそこにあるかもしれません。

  • 患者と医療従事者の自律をサポートする医療と健康の院内情報誌 ロハス・メディカル
月別アーカイブ
サイト内検索